各々の詩に描かれた概要は、
第1曲「オンディーヌ」
人間の男に恋をした水の精が、結婚して湖の王になってくれるようにプロポーズするが、断られて狂乱状態に陥りながら、水滴となって消えていく…
第2曲「絞首台」
弔いの鐘が響く中、聞こえてくるのは風の音か、死者のすすり泣きか?…
不気味な夜の世界を描き出した作品。
第3曲「スカルボ」
蜘蛛のように醜怪な姿をした妖精が、部屋の中をめまぐるしく動き回って、悪戯の限りを尽くす…
超絶的な技巧を要する難曲ですが、既に定評ある名演奏には事欠きません。
作曲者ラヴェルから、曲の意図や解釈を隅々にわたるまで直伝されたと言われるペルルミュテー盤からは、
怪奇的な雰囲気が如実に伝わってきます…
磨き抜かれた技巧に加えて、鋭く研ぎ澄まされた感性によって紡ぎだされる、多彩で閃きに満ちたアルゲリッチ盤からは、
おどろおどろしい物語に内包されたファンタジーが、無限に拡がります…
そんな中から今日エントリーするのは、カナダ人ピアニストのアンジェラ・ヒューイットの演奏です。
彼女の端正な表現を聴いていると、詩に描かれた怪奇的な内容よりも、
ラヴェルがイメージする「オンディーヌ」「絞首台」「スカルボ」の表現にスポットを当てた演奏と感じます。
第1曲「オンディーヌ」
陽の光に映えて輝く水面の変化、湧き出る泉から立ち昇る泡、水の流れをなどが克明に表現されていますが、
ヒトは、このような水の生態を五感で感じることによって、水の精(オンディーヌ)を創造するのだなぁ、と感じるのです。
第3曲「スカルボ」も然りで、
正体不明の何かが暗闇で蠢き、灯りの周りを飛び回る蛾のように、影の形や大きさが変化する様子が描かれ、
こういった現象を体験することにより、ヒトは時に小悪魔的な生き物をイメージするのだなぁと、ふと思います!
私の表現が拙いために、説明的な演奏と思われるかもしれませんが、決してそうではなく、
ヒューイットの表現に強く共感できるからこそ、ラヴェルの描いたイメージが共有できるように思うのです。
それは、ほぼ同時期に書かれた『マ・メール・ロア』の世界と共通する、穏やかなファンタジーに満ちた演奏!
作曲者の意図云々は別として、この曲が好きな方には一聴をお薦めしたい演奏です。