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J.ブラームス:4つのバラード op.10

ジュリアス・カッチェン(ピアノ)


1854年、ブラームス21歳時の作品。

ただ、バラードとしての叙事的・物語的な内容を含んだものは第1番のみで、後の3曲は抒情的な小品と言った方が当たっているのかもしれません…。

その第1番は、「エドワード」というスコットランドに古くから伝わる物語をもとに書かれた詩を読んで、インスパイアされたと言われています。

内容は、妻子を持つ男(エドワード)が、実の母親から教唆されたと信じ、父親を殺害してしまったという衝撃的な会話を綴ったもの…。

ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』にも採り上げられた、教唆殺人という重いテーマが思い浮かんできます…。


そして、単なる偶然かも知れませんが、

ブラームスがこのバラードの作曲に取り組んだのは、恩師シューマンがライン川で入水自殺を図った直ぐ後のこと。

このようなテーマのブラームス作品を他には知りませんので、「この詩に興味を抱いた彼の心境たるや如何に」と、つい考えてしまいます。


第1番は、詩のリズムや感情の変化に重きを置いた音楽なのでしょう。
優しく不安げに問いかけるような旋律と、そっけない返答が絡みあって、中間部では緊張感が最高潮に達しますが、
とりわけ印象的なのは、左手の刻むわなわなと震えるようなリズムに乗って冒頭主題が回帰される部分の、胸が締め付けられるような健気さ!
残虐さやテーマの重さは、少なくとも音楽からは感じられません…。

第2番は、初々しい若さが感じられる、胸打ち震えるような静かな喜びに満たされた音楽。

第3番「間奏曲」は、思いがけなさ、おそるおそる、思考錯誤といった複雑な感情が混在した、いかにも自信なげな心境が表現されているようです。

第4番は、降りしきる雨にぬれたペーブメントに映える灯りを見るような、詩的な美しさを湛えた音楽。
中間部では、より深い抒情へと誘われていきます。


第1楽章の詩のテーマを表現したような演奏がもしあるのなら、聴いてみたいと思うのですが…。

これまで聴いた中で、ジュリアス・カッチェンの高貴さを漂わせピアノの音色は、ブラームスの若々しい一途さと、密やかな切なさが紡ぎだされるようで、大変に美しい演奏だと思います!

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