後半部の急速な部分は、スペインアラゴン地方の熱狂的な舞曲「ホタ」を題材としており、
有名な「ハンガリア狂詩曲集」と同様に、緩急の対比によって楽曲が構成されています。
しかし「スペイン狂詩曲」と言う曲名とは裏腹に、それほど強い民族色が強く感じられる曲ではありません。
ラヴェルの同名の曲を聴いて感じる、むせかえるように濃密なスペイン的な情緒や熱気は、部分的に僅かに感じれる程度です。
にもかかわらずこの曲をエントリーしたのは、ひとえにエミール・ギレリス(1916-1985)の演奏に惹かれたからなのです。
1968年、ギレリス52歳の頃にライブ録音されたこの演奏!
幻想的な鐘の音色を髣髴させる冒頭部、
それに続く鬱々としたエネルギーをはらみながら、ひたすら英雄的な力強さで前進する前半部から、
ひたすら超絶的なヴィルトオーゾ性が全開された、とてつもなく求心力の高い演奏です。
後半部「ホタ」の舞曲に移ると、ギレリスの打鍵には一層鋭さが加わり、
熱狂的にカスタネットを打ち鳴らしながら、
時に濃厚なスペイン情緒を垣間見せながら、
とどまるところを知らないほどに情熱は高まっていきます。
コーダでは、冒頭の主題が長調に転調されて、いっそうの高揚感を残しつつ、華やかに力強く曲は結ばれます。
申すまでもなく、ギレリスは単なる技巧派のピアニストではありませんが、
ヴィルトオーゾ性が強く印象に残るこの演奏は、
ライブという熱気に包まれて、尋常ならざる盛り上がりをみせた、まさに一期一会の演奏と言うに相応しいもの。
CDを聴き終えて、思わず拍手喝采してしまいました。