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F.ショパン:スケルツオ第2番 変ロ短調 op.35

マウリツィオ・ポリーニ(ピアノ)


この曲が作曲された1837年、

秘かに結婚を誓っていたポーランドの貴族ウォジニスキ家の末娘マリアとの連絡が取れなくなり、

彼女の母親からの一通の手紙で一方的に破談となったことで、精神的に大きなダメージを受けたこと、

それを境に、サンドとの仲が急速に親密となっていったこと、

悪性のインフルエンザに罹患し、喀血したことによる健康面での不安(=結核による死の恐怖)等…。

ショパンにとっては、祖国ポーランドを去って以来の最大の転機ともなった年と位置付けられています。

4曲のスケルツオの中でもとりわけ人気の高いこの曲は、そんな状況のもとで作曲されました。


冒頭、短調で奏される動機は、不安・絶望・猜疑心等々、解決の糸口が掴めない不安定さと、

それを乗り越えるべく、悲痛なまでの決意を込めた意思の表明と感じられます…。

それに引き続き、左手が悲劇的な宿命を髣髴させるように激しく低音を響かせる中、右手が奏でる美しく息の長い旋律は、希望がほの見えてくるような音楽…。

サンドとの出会いが仄めかされているのでしょうか。

中間部は無表情にそっけなく始まりますが、徐々に輝やかしさと愛おしさが増していき、

続く三拍子の心地良い揺れによって生ずる精神的な高まりは、次第に法悦の境地へと誘われていく趣が…。

この部分、ショパンの音楽がもたらしてくれる、まさに至福のひとときと感じます!

再び冒頭部の動機が回帰して始まる後半部は、めくるめくように美しい転調を繰り返しながら、心のときめきは抑えきれずに高まり、華やかなコーダへと…!


完璧な打鍵による磨き抜かれた音!

ポリーニの完璧な演奏技術については、既に言い尽くされていますが、

眼光紙背に徹したスコアの読みによって生ずるのであろう、曲と一体化した感情の揺れは、ただ唖然とするばかりの感動をもたらしてくれます。

還暦を過ぎて涙腺が緩くなったせいか、この演奏の中間部から後半にかけて、聴くたびになぜか涙が止まらなくなるのです。

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