めくるめくようなアルページオや転調、不協和音等が織り成す、この大胆で奔放な感情表現を聴くと、
バッハがジャンルの垣根を越えた、幅広い音楽から愛されている理由が理解できるような気がします。
ファンタジー(幻想)、レチタティーヴォ、フーガという3つの部分から構成されるこの曲は、最近はチェンバロで演奏されることが圧倒的に多いようですが、
私が愛聴する演奏はピアノ盤で、しかも1931年に録音されたエドウィン・フィシャーによるもの。
10年前に初めてこの演奏を聴いて、初めてこの曲が好きになりました。
前述した冒頭部の激しさに押し流され、いつの間にか瞑想の世界へと誘われていくファンタジー部、
そんな余韻が漂う中に開始されるフィッシャーの奏するレチタティーヴォ部は、
諭すが如くに聴き手を温かく包み込みながら、
私にとっては未知の、高邁な宗教的感動を体験するような感慨を抱かせてくれる演奏。
そんな感動を湛えつつ開始されるフーガ部は、
縦に積み上げながら構築されていく厳かさとは無縁な、穏やかな流れの曲として開始されますが、
曲の進行とともに感動は高まり、圧倒的な高揚感を迎えます!!
この曲に感動したのは、後にも先にもこの演奏だけ!
他の演奏は厳めしいだけで、つまらなく感じてしまうのです。
ただこの曲、未だにチェンバロで聴いたことがないことは、お断りしておきます。
SP時代の録音で恐縮ですが、もし機会があればフィッシャーのこの演奏、聴いていただければと思います。