あの素晴らしい弦楽三重奏曲K.563のディヴェルティメントにしても、チェロは脇役的な印象を抱いてしまいます…。
名手との出会いが作曲家の創造力を啓発すると言われますが、
ハイドンはエステルハージの宮廷楽団で複数のチェロの名手と知り合ったお蔭で、チェロパートの充実した室内楽作品を書きましたが、
モーツァルトの場合、この楽器の可能性に目覚めるような演奏家との出会いが無かったためだと、言われています。
彼の7曲あるピアノ三重奏曲においても、そういった印象は払拭できないように思えます。
にもかかわらず、モーツァルトの曲には、そんな弱点(?)を超越した素晴らしい作品を数多く残しています。
今日エントリーするK.502もそんな名作の一つだと思います。
第1楽章は、華やかで和やかな楽想を持つ曲で、とりわけピアノとヴァイオリンの自由で闊達な会話が楽しめるもの。
第2楽章のラルゲットの主題部は優しく可憐な表情の音楽です。懐かしさを湛えた中間部は、この曲最大の聴きどころでしょう。
懐かしさを漂わせた戦慄が短調へと転調していく一音一音には、
万感の思いの中に込められた悲しみが溢れ出すような、至上の美が湛えられているようで…!
モーツァルトの作品中でも、とりわけ美しい瞬間であると感じています。
第3楽章冒頭のピアノが奏でるオルゴールのような響きは、夢みるような美しさ!第2主題の表情も、愛おしさが滲み出るような音楽です。
美しく粒立ちの良いピリスのピアノ、
ビロードのような光沢を持ったデュメイのヴァイオリン、
そして引き締まった音色を奏でるワンのチェロ!
表情の美しさ、アンサンブルの精緻さで、夢のような時を過ごさせてくれる名演だと思います。