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フランツ・シューベルト:
歌曲『3つの竪琴弾きの歌』D.478〜80 

D.フィッシャー=ディースカウ(バリトン)  ジェラルド・ムーア(ピアノ)


シューベルト(1797-1828)が1816年、ゲーテの小説『ウィルヘルム・マイスターの修業時代』(全8巻)に収められた3つの詩に曲を付けたもの。

18世紀封建制下のドイツで、恋に破れ演劇界に身を投じたヴィルヘルムが、人生の明暗や運命の浮き沈みを体験していく姿を描いたこの小説は、

ドイツにおける精神修養の過程をすべからく語った書物として、ヘルマン・ヘッセやトーマス・マンらも規範としたと言われる代表的な古典文学。

この小説には様々な人物が数多く登場しますが、

中でも数奇な運命に翻弄される二人、即ち諸国を遍歴する竪琴弾きの老人と少女ミニヨンの人物像は、

シューベルトやシューマンを始めとする多くの作曲家の創作意欲を掻き立てたようです。


『竪琴弾きの歌(T)D.478』は、
老人の弾く竪琴を模したピアノのアルペッジョが、深い悲しみを湛える中、
自らの死・孤独・苦しみに対する嘆きや不安が切々と歌われます。

とりわけ最後のDa läst sie mich allein(苦しみは私を一人にさせるのだ)と、絶叫するように歌われた後、
同じ言葉が静かに繰り返される部分での、尋常ならざる感動の深さ!

『同(U)D.480』では、
最後のDenn alle Schuld rächt sich auf Erden(全ての罪はこの地上で報われるのだから)での急激な強弱の変化は、
激しい苦しみを想わせるのですが、
静かに繰り返されることで
救済されるような感動が訪れます。

『同(V)D.479」 では、
糧を求めてさまよう老人を表わすように、頼りなく悲しげに刻まれる伴奏と、
Jeder wird sich glücklich scheinen、
Wenn mein Bild vor ihm erscheint、
Eine Träne wird er weinen
(私の姿を見れば、誰もが自分が幸せだと感じて、一粒の涙を流す)
この部分の曲想からは、慈愛と憐憫の情に加え、
18歳のシューベルトの、驚くほど冷徹な視線が感じられます。


後年の連作歌曲集『冬の旅』を髣髴させる内容の3曲ですが、

F=ディースカウとムーアのコンビによるこのディスクは、聴くほどに味わいが深まってくる、超お薦めできる名演奏だと思います!

私も当分の間は、この曲に入れ込みそうな予感が…。

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