最近は安価なボックスセットとして買い易くはなりましたが、
仮に入手したとしても、全てを聴き通すことは、多分苦痛を伴なう楽しくない行為だろうと推測しています。
だいいち、他にも聴きたい作曲家や作品が数多くありますし…。
ですから気まぐれに入手した一部の作品を聴いて、偉大さの片鱗を味わうことができればと思っています…。
今日エントリーするピアノソナタ第53番は、
不思議な誘惑に始まり、
愛らしさや美しさがてんこ盛りされ、
且つ意外性が折り込まれた楽曲に惹かれて、最後まで聴き入ってしまった一曲でした!
ホ短調の第1楽章、冒頭のPrestoで奏でられる旋律を聴いた途端、「?……」。
何となく意味深そうで、謎をかけられて思わず考え込んでしまうような、そんな印象的が…。
しかしこの主題が表情を変えて繰り返されるうちに、
幼い子供が、興味津々「何故…」「どうして…」と矢継ぎ早に問いかけてくるような、そんな愛らしさが感じられてきました!
多分フェルマータ記号が記されているのでしょうが、
途中で曲の流れが途切れ、一瞬考え込むようなところも、大変に面白く感じられます。
Adagioの第2楽章は、シンプルな素朴さを湛えながら穏やかに開始されますが、
左手が奏でる、ゆったりとした低音部と、
右手が奏でる、宝石箱をぶちまけたような装飾性に富んだメロディーラインの対比が意外性に富んでおり、
その饒舌さにはユーモアすら感じられ、知らない間に曲に惹き込まれていく楽しい楽想です!
第3楽章は、第1楽章と同様にホ短調で開始されますが、屈託のない天真爛漫な音楽です。
気分に変化を与えながら、どんどんと上昇していく、溌剌とした爽快さに満ちた音楽!
この曲、実は他のピアニストで聴いた時には、何の変哲もない音楽と思っていたのですが、
シフの演奏を聴いて目から鱗の思いでした。
作曲家に敬意を表し、緻密に楽譜を読み込むことによって到達した解釈、そんな印象が強く残る素晴らしい演奏でした。
ハイドンのピアノソナタに初めて興味を抱いた一曲でもあります。