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ベートーヴェン:ピアノソナタ第1番 Op.2-1 

ヴィルヘルム・バックハウス(ピアノ)


1795年、ベートーヴェンが24歳の時に書かれたピアノソナタ第1番は、彼が最初に書いたピアノソナタではありません。

それまでに既に、選候帝ソナタと呼ばれる3曲や、ソナチネ、そして後に作品番号が付与されたピアノソナタ第19、20番を作曲していました。

この曲はそんな過程を経て完成された作品だけに、

作品番号は若いものの、若々しい息吹の中に、強い意志を漲らせた独創性が垣間見れる、以前と比べ格段に完成度の高い作品として、評価されています。

他の2曲(第2、3番)とまとめて、彼が師事したヨーゼフ・ハイドンに献呈されたために、Op,2という共通の作品番号が付与されていますが、

それぞれの曲に独自の個性が感じられる作品群となっています!


今日エントリーするのは、20世紀初頭から半ばにかけての巨匠バックハウスの演奏です。

若い頃には、極めて自然な流れの中に感情の起伏が表現される彼のベートーヴェン演奏を、恣意性が皆無なものと感じ、

「楽譜に書かれていること以外、何も特別なことはしていないのだが…」で始められる演奏評に肯きながら、標題付きの有名ソナタ集に聴き入っていたものでした。


このバックハウスの来日コンサートを会場で聴かれたというあるご婦人が、

そのステージ姿を評して、「直立不動の姿勢でお辞儀をし、まるで兵隊さんのように腕を振って歩いておられましたよ」と懐かしそうに話しておられましたが…。

第1楽章はまさしくそんな姿を髣髴させるように、曲の表情は素朴で、謹厳実直そのものなのですが、
同時に、最近BS放送で上映されているエルキュール・ポアロの立ち居振る舞いを思わせる、エレガントな中にどこかユーモアが漂い、曲想に合致した演奏と思いました。

第2楽章は、ちょっと勿体ぶった中にエレガントな美しさが漂う音楽。
モーツァルトは、身近なお嬢さんに恋したと言われますが、
ベートーヴェンの対象は、常に自分よりも身分の高い、教養のある女性に限られていたそうです。
バックハウスの淡々とした素朴な演奏からは、そんな気高さに憧れる気持が、他のどの演奏よりも感銘深く聴き取れます。
若い頃、そんな芸風が好きで、彼のベートーヴェン演奏を愛聴していたことを思い出しました。

第3楽章メヌエットからも、素朴さの中に哀愁が感じられますし、

第4楽章では、一直線に邁進する若者の素朴なエネルギー感が伝わってくる好演!

自然に流れる素朴な演奏の中に、ベートーヴェンの夢や憧れが自ずと表現された、見事な演奏だと思います。

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