最近聴いたCD

ロベルト・シューマン:歌曲集『詩人の恋』Op.48 

ディートリッヒ・フィッシャー・ディスカウ(Br)
クリストファー・エッシェンバッハ(P)


1840年はシューマンの「歌の年」と呼ばれ、歌曲集『リーダー・クライス』『ミルテの花』『女の愛と生涯』、そして今日エントリーする『詩人の恋』をはじめとして、130曲余りもの歌曲を作曲しました。

この連作歌曲集は、ハイネの詩『歌の本』の「抒情間奏曲」の中から抜粋された16の詩によって構成されています。

シューベルトの『美しき水車小屋の娘』や『冬の旅』のような物語性はないものの、

若き詩人の心情の移り変わりが、巧みな楽曲配置によって美しく表現されていて、飽きることなく曲を聴くことができます。


彼の歌曲の多くは、歌の素晴らしさに加えて、伴奏ピアノが大変に充実したもので、この曲集でも、その内容は特筆されるべきもの!

10年ほど前までは、歌曲との相性が悪かった私でしたが、

この曲だけは声を無視して、ひたすらピアノ伴奏に聴き入っていた、お気に入りの曲でした。


一番気に入っているディスクは、昔も今もF.ディスカウのバリトンと、エッシェンバッハのピアノによる演奏です。

声の美しさはもとより、語るがごとくに歌われる彼の歌唱は含蓄が深く、

詩の内容が理解できずとも、聴き手の想像力を刺激するように感じられます。

エッシェンバッハのピアノは、前述したようにそれだけを聴いても十分満足できるものですが、

声楽との相乗効果によって、一段と創造力が発展するように思えます。


とりわけ印象深い曲を列挙させていただくと、

人を恋すると同時に芽生えてくる不安が美しく歌われる、第1曲「美しく麗しい五月に」

愛するほどに不安にかられ、内省化していく切ない心が表現された、第5曲「心を潜めよう」

運命に翻弄され、恋の悲劇の結末を予兆させる、第6曲「聖なるラインの流れに」

愛する人が他の男とワルツを踊る姿を、儚く切ない気持で茫然と眺めるような、第9曲「あれはフルートとヴァイオリン」

そっと触れるだけで壊れそうな傷ついた心で、愛した人の面影を偲び涙する、第10曲「あの歌を聴くと」

朝靄の中、悲しみを抱きつつ野をさまよう若者の心を歌った、第12曲「眩くきらめく夏の朝に」。
悲しみが昇華へと導かれる第一歩を表現したような、大変に美しく印象的な一曲です。

悲しみを渾身の力で振り切り、未来へと向かう若者の姿が歌われた、第16曲「昔の忌まわしい歌」。
ピアノの奏でる浄化された透明な響きは乾いた涙であり、
恨みや妬みとは一線を画した、美しい過ぎ去った日々の想い出…。

素晴らしい演奏だと思います!

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