彼の主宰する音楽評論誌で、熱烈な称賛をもって紹介されたことがきっかけとなって、若くしてドイツ国内での作曲家としての揺るぎない地位を獲得しました。
翌年の2月、精神の病を負ったシューマンはライン川に入水自殺を図りますが、未遂に終わり、
その後入院生活を送ったまま、1856年7月に世を去りました。
シューマンと出会ってからの3年間、そして彼が死した後も、
ブラームスとクララの関係については、今も尚様々な憶測がなされています…。
ピアノ協奏曲第1番は、1854年2月にシューマンがライン川に入水自殺をした年に作曲が開始され、彼の死後の1857年1月に完成されたブラームス初期の大作。
懊悩や煩悶、激情といった激しい感情が荒々しく表出されていますが、
それは、自分を世に紹介してくれた恩人シューマンの病や死に対する心情なのか、クララへの狂おしいまでの恋愛感情を吐露したものなのか、相反する思いに葛藤する姿なのか…。
今日エントリーするアラウのピアノ、ハイティンク指揮するロイヤル・コンセルトヘボウの演奏(1969年録音)。
この曲は、結構様々な演奏を聴いているのですが、
第1楽章冒頭、鬱積された感情が一気に噴き出すように、物凄いエネルギー感を有して炸裂するオーケストラの響きに、いきなり度肝を抜かれました。
秋色に彩られた木々の葉から滴る朝露や、陽射しによってその色を微細に変化させる、いかにもブラームスらしい憂愁を含んだ、得も言われぬ表現の妙!
夜の帳に浸るような余韻の中に、突然強打されるピアノと、それに応じるオーケストラとの丁々発止とした駆け引きは、クララへの抑えきれぬ想いの高まり…?
聴くたびに、随所に新しい感動が発見できる、素晴らしい楽章であり、演奏であると思います。
第2楽章Adagioは、木漏れ日の中に得られる寛ぎのように、穏やかな感傷に支配された静寂の音楽…。
アラウの奏でる情熱を抑えたピアノと、オーケストラとの阿吽の呼吸を想わせる対話と、
時に抑えきれぬ感情の盛り上がりが、ことのほか素晴らしい演奏。
第3楽章の第1主題は、天真爛漫に見果てぬ夢を追うような、愉しげな演奏もありますが、
アラウ/ハイティンクの演奏を聴いていると、ブラームスのもどかしく空回りする情熱を髣髴してしまいます。
一転して、抑制された感情がもたらす第2主題は、幸福感に満ちた大変に美しいもの…。
随所で聴ける、ゆったりとしたロマンの香り溢れるアラウのピアノと、
オケの素晴らしい響きと瑞々しさに、時を忘れて陶然とするこの演奏!
私がこれまで聴いた中では、最高のものだと思います!