ラヴェルの『ダフニスとクロエ』第3幕と、
ワーグナーの『神々の黄昏』序奏部を双璧とする旨の文章を読んだ記憶が有ります。
確かにこの2曲は、単に情景の描写に秀いでているだけでなく、
その後の展開を予兆させる壮大なイマジネーションを呼び覚ます、素晴らしい音楽だと感じていました。
CD時代になって、NAXOSをはじめとする新興レーヴェルからは、未知の作曲家による膨大な数の作品がディスク化され、
当時とは比べ物にならないほど多彩な音楽を聴く機会が増えた昨今ですが、
「清明且つ劇的な感動」と言う点において、
未だにこの2曲を超えると思う「夜明け」の音楽に接したことは有りません。
昨日、朝早く目覚め、森の向こうの東の空が、ほのぼのと明るさを増しつつ赤みを帯び始めた時、突然ワーグナーの「夜明け」を、無性に聴きたくなりました。
LP時代、フルトヴェングラー指揮するベルリン・フィルの演奏を、繰り返し何度も聴いたものでした。
この演奏に感化された私は、「いつかはバイロイト詣でを!」と夢見たものでしたし、
サラリーマンになった直後には、愛蔵家ナンバーの入ったベーム指揮する『指輪』全曲盤(LP)を予約購入したりして、着々と心の準備を進めていたのですが…。
その頃は、朝6時に家を出て帰宅が夜の11時という生活で、たまの休日に長大なワーグナーの音楽を聴く気力も体力も残されておらず、一通り聴き終えたのは、購入してから1年以上は経過していました…。
今は、バイロイト詣でを考えることもなく、せいぜいハイライト盤か組曲版のようなものでお茶を濁している状況です。
LPを手放して17年になりますが、それ以降フルトヴェングラー盤は聴いたことが有りません。
最近よく聴くのは、テンシュテット指揮するベルリン・フィル盤。
この演奏でとりわけ素晴らしいと思うのは、
万物が息を潜め、大気の流れすら感じられない静寂の中、
東の空がじんわりと明るさを増し、微かに赤みを帯びてくる、
そんな様子が神秘的な感動をもって描かれた、「夜明け」の部分の素晴らしさ!
「ラインの旅」(第1幕への間奏曲)では、ブリュンヒルデとの愛の巣から、新たな名誉や功績を求めてラインへと旅立つジークフリートの雄々しさと、
徐々に不穏な予兆を漲らせていく、凄味のある表現!
名盤の誉れ高い、クナッツパーツブッシュ/ウィーン・フィルの、馥郁とした愛の余韻漂う演奏とは好対照ですが、
最近はテンシュテット盤により強く惹かれます。