ラヴェル(1875-1937)作曲のこの演奏会用狂詩曲は、ハンガリーの女性ヴァイオリニストのイェリー・ダラーニの弾く民族的な旋律に感化され、ヴァイオリンとピアノ・リュテアル(又はピアノ)の為の作品として1922年に着想、24年に脱稿され、彼女に献呈されました。
伴奏楽器としてピアノ・リュテアルが指示されているのは、ハンガリーの民族楽器ツィンバロムの響きを連想させるため。
全曲を通して熱く濃い民族色に彩られた作品と言えるでしょう。
ロマと彼らの生活様式を描いたと言われるこの曲は、いきなり超絶的な技巧を要するカデンツァで開始されます。
様々な心情が次から次へと吐露されるような、長大なこのカデンツァ部分は、
恰も情熱的なロマの女性が自らの半生を独白するかのように、
時に悲しみを込めて、
時に悦ばしげに、
時に怒りをぶつけるように、
時に見果てぬ夢を語るように…
そんな音楽が展開されているように感じられます。
カデンツァでの独白が終わると、ピアノ(管弦楽ではハープ)のグリッサンドに導かれて、ロマの人々の陽気で楽しげな生活が描かれます。
曲はテンポをあげて華やかさが増すと同時に、民族色は一層強まり、
熱狂的にエンディングへと突き進んでいきます。
この曲、後半部の華やかな盛り上がりが演奏効果をいやがうえにも高めるためか、ここ数年の間に5度もコンサートで聴く機会がありました。
確かに、曲が終わった時には盛大な拍手が沸き起こるものの、
逆に前半の長大なカデンツォの演奏で聴衆を惹きつけることがいかに難しい曲か、ということを知りました。
今日エントリーする演奏は、シャンタル・ジュイエという女性ヴァイオリニストの演奏、デュトワ指揮するパリ国立管によるもの。
ラヴェル自身が、脱稿された同じ年の暮れに、管弦楽のために編曲したものです。
特に前半のカデンツァ部分の演奏は、恰も演奏者自身の恋愛体験を聴くような説得力のある演奏で、
これまでに経験したことがないほど、この曲に惹き込まれていきました。
後半部は、超絶的な技巧によって、華やかな民族色が際立ちます。
彼女のヴァイオリンと、パスカル・ロジェのピアノ・リュテアルによるこの曲の演奏もディスク化されて発売されていますが…。
初めて聴いたリュテアルの音色は、リュートを思わせる鄙びた味わいのもので、曲想に合致したものだと思いましたが、
彼女の奏する音色とはミスマッチの印象を受けてしまいました。