1776年になって貴族やブルジョワ階級からの注文が増え始め、それに応じて立て続けに3曲の協奏曲(第6〜8番)が作曲されました。
この曲は、ザルツブルグの音楽愛好家で、父レオポルドの弟子でもあったリュッツォウ伯爵夫人からからの注文で作曲されたことから、「リュッツォウ」の愛称で呼ばれています。
アマチュア音楽家だった婦人が弾けるように、ソロパートは技巧的に易しく書かれているとか…。
私自身、これまでこの曲をとりたてて素晴らしいと感じたこともなく、エントリーするつもりはなかったのですが、
ケンプのピアノ、ライトナー指揮するベルリンフィルの演奏(1962年録音)を聴いて、気が変わって書き始めたところです。
己の知識のなさや感性の未熟さ故に、
曲の良否や好悪の判断基準の大部分を演奏家に委ねざるを得ないのは、楽譜を読めない素人愛好家の宿命のようなものなのです…。
第1楽章!ケンプというと、これまでに聴いた範囲では地味で味わい深いという印象の強いピアニストだったのですが、
この曲では粋で颯爽とした音楽が奏でられていることにびっくり!
この楽章が、こんなコケティッシュな側面を持っていたのかと、目から鱗の思いでした。
第2楽章では、前楽章の饒舌さから一転して、ちょっと口をつぐんで慎重に…。
木管楽器との当意即妙なやりとりや、音の強弱の微妙な変化から生ずる美しいフレージングからは、時に夢のような美しい瞬間が生まれます。
終楽章でケンプが刻むリズムは、ゆったりとして素朴なものですが、「立ち居振る舞いの良さ」が感じられる、格調高い音楽!
この演奏を聴いて、多様な曲想を有する曲であることを、初めて認識することができました。
オーケストラも壺を心得た演奏だと感じていたのですが、この時期のベルリン・フィルは、ベームとの交響曲全集の録音(1959-68)に取り組んでいたのですね!
素晴らしいインスピレーションが得られたお蔭で、同曲異演盤を聴くのが楽しみになってきました!