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フランツ・シューベルト:ピアノ三重奏曲第1番

ヴェラ・ベス(Vn) アンナー・ビルスマ(Vc)
ジェス・ファン・インマゼール(フォルテ・ピアノ)


シューベルト(1797-1828)最晩年の1827年に2曲の長大なピアノ三重奏曲を書きましたが、各楽器の名人と懇意になり、彼らの強い要望によって、創作意欲が掻き立てられたためといわれています。

この年には、『冬の旅』『3つのピアノソナタ(D958〜960)』『4つの即興曲(D899、D935)』『弦楽五重奏曲』『ミサ曲変ホ長調』等の傑作が次々と書きあげられ出版されましたが、

この曲がシューベルトの生前中に変ホ長調(D899)が出版されなかった理由は、ほぼ同時期に書かれた変ロ長調(D929)の方に自信をもっていたために、こちらの出版には躊躇したからだと推測されています。

しかしながら、現在ではどちらの作品も、古今のピアノ三重奏曲の名曲として高く評価されています。


今日エントリーする演奏は、インマゼールのフォルテ・ピアノ、ヴェスのヴァイオリン、ビルスマのチェロによるシューベルト。

古楽器演奏には、必ずしも好意的に接することができない私ですが、

若々しく瑞々しい、ロマンの息吹に溢れたシューベルト演奏の裏に潜む、心の苦悩が垣間見れる、素晴らしい名演奏が誕生したと思っています。


ヴァイオリンとチェロのユニゾンで奏される、明朗で自由闊達な第1楽章第1主題。
ピアノ伴奏に乗って、チェロがそっと忍び寄るように奏される、優雅な美しさが印象的な第2主題…。

第2楽章第1主題は、素朴で美しい旋律が、ピアノとチェロでしみじみと語られれますが、
第2主題は、一転して情熱をはらんだ演奏が展開され、シューベルトが晩年に抱いたのであろう、生きることへの希求が痛切に感じられます!

第3楽章は、快活さとロマンに溢れたスケルッオ楽章ですが、
トリオ部の息の長い、情熱が高揚するような旋律には、寂寥感が忍び寄ります。

第4楽章の軽やかな疾走感は、天上で遊ぶ天使たちの音楽でしょうか。
とりわけ、ヴェスの爽やかなヴァイオリンの音色が、曲を軽やかな高みへと導き、この音楽の清涼な美しさを際立たせているように感じられます。

一度はお聴きになることをお薦めしたい名演奏だと思います。

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