交響曲と名付けられてはいますが、
それ以前に書かれた『家庭交響曲』同様、標題を持つ曲が連続して演奏される単一楽章の作品で、実質は交響詩と考えてもよいのでしょう。
14歳の時に登った、ドイツ・アルプスのツークシュピッツェ山での体験をもとに作曲されたと言われており、
実際にこの山に登ってみると、音楽と同じような風景が広がっているそうで、描写の的確さに驚かされたという話を、FM放送の解説で聴いた記憶があります。
ケンペ/ロイヤル・フィルのLP盤がこの曲最初のステレオ録音で、その曲名と、雄大なアルプスを捕った豪華な見開きジャケット(30×60cm)に惹かれて飛び付きましたが…
精一杯詰め込んでも、片面30分が限度と言われたLP盤の宿命で、
途切れることなく50分間演奏されるために、曲の真ん中にあたる第12曲「頂上」、曲が最高潮に達する直前にA面が終了することになり、
最大の聴きどころの一つで、盤をひっくり返した上で、勇壮なクライマックス「太陽の動機」を迎えざるを得ないという、白けるような盤面割りでした。
そのせいもあって、いまいち曲にのめり込めなかったように記憶しています。
当たり前のように全曲を一気に聴き通せるCDになってから、この曲の人気が急上昇したことは、何となく理解できるように思います!
それでも昔から、描写的な側面がなんとも魅力的な作品でした。
第1曲「夜」の、闇と朝靄に包まれた大気が徐々に晴れて、
日の出とともにアルプスの全容が姿を現すような、視覚的感動を覚える第2曲「日の出」!
第4曲「森に入る」での、狩りを思わせるホルンの雄叫びや、鬱蒼とした森の情景が…
第8曲「高原の牧場にて」での、ホルンやカウベルののどかな響き!
第12曲「頂上」での、オーボエが奏する爽やかな達成感と、再び鳴り響く太陽の動機の感動的なこと!
第13曲「幻影」から第15曲「太陽が第に薄れる」にかけての、大気の変化が実感できる、表現の素晴らしいこと!
第18曲「雷雨・下山」での、稲妻や雷鳴のリアルさ等々…。
どの曲も、単なる描写に終わらず、作曲者の共感が盛り込まれているためでしょう。
いつ聴いても、フレッシュで爽やかな感動が得られます!
最近は前述したような情景を楽しみつつ、第19曲「日没」から第21曲「夜」に至る、平穏な寛ぎのひと時を描いた楽曲に惹かれるようになってきました。
エントリーしたハイティンクの演奏からは、古の想い出を回顧しながら、心安らかな喜びに浸れるように思えます…。