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アナトーリ・リャードフ:
交響詩『魔法にかけられた湖』

ミハイル・プレトニョフ指揮  ロシア・ナショナル管弦楽団


リムスキー=コルサコフを師と仰ぎ、色彩豊かな管弦楽法を受け継いだアナトーリ・リャードフ(ロシア・1855-1914)ですが、交響曲やオペラなどの大作には手をつけず、

ロシアの民間に伝わる民話や民衆劇を題材にして、描写的で幻想味に溢れた管弦楽やピアノの小品を作曲しました。


その中でも交響詩『魔法にかけられた湖』は、森の奥深く佇む神秘的な湖や、それを取り囲む木々の表情の変化を描いた作品。

曲の冒頭、弱音器をつけた弦が奏でるさざめきの中、ハープのアルペジォや木管のソロが奏でる音色からは、

月明りのもとで滴るような深い緑の中、大気のそよぎによって湖面が波立つ様子や、

立ち昇る靄や木々のざわめきが、

絵画的というよりも、むしろ気配として描写されていると感じられます。

そのためかこの曲からは、自然界の描写もさることながら、作曲家の孤独な心境がより強く感じられるのです。


プレトニョフ指揮するロシア・ナショナル管の描くりゃードフの音楽は、過剰な感情移入のない、実に精緻で客観的な演奏。

そのために、作曲者が意図した色彩や陰影の微細な変化が、虚飾なく伝わってくるのでしょう、

聴き手にとっては、詩的で幻想的な、様々なインスピレーションに溢れた音楽と映るのです!

冒頭部の弦のさざめきは、ドビュッシーの音楽を思わせる透明な美しさが…。

木々のざわめきからは、ジークフリートが奏でる角笛の響きが、今にも聞こえてきそうに思えます。

折衷的で、中途半端な書き方しかできませんが、ロシア国民楽派の音楽の中では趣の異なった、なかなかの佳曲だと思います…。

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