最近聴いたCD

J.S.バッハ:パルティータ第2番 BWV826

ピアノ:マルタ・アルゲリッチ


partita(パルティータ:イタリア語)とは17、18世紀の音楽用語で、「組曲」と「変奏曲」の二つの意味に用いられていますが、原語の意味は「変奏」で、イタリアでは「組曲」を意味することはありませんでした。

ところがバッハ時代のドイツでは、フランス語のparutie(組曲)に由来するparthieが「組曲」の意味で用いられ、partitaと混同されてしまったままで現在に至っているようです。


今日エントリーする演奏は、アルゲリッチの瑞々しい感性が随所で聴かれる1979年のスタジオ録音。

ただ、例えば第1曲に関して言えば、より崇高で瞑想的な私の大好きな演奏もあり、どれをエントリーすべきか躊躇したのですが、

彼女の弾いた「パルティータ」はこの曲しか聴いておりませんし、それに第4、5、6曲が類稀な素晴らしく個性的な演奏だと感じましたので、敢えて採り挙げさせていただきました。


第1曲「シンフォニア」の冒頭Grave adagio部は、透明な抒情性が押し出されるために、深みに欠けるように感じられます…。
しかしAndante部に入ると、とめどもなくインスピレーションが湧きあがる、極めて抒情的な美しい演奏…。
これがアルゲリッチの解釈なのでしょうね!

第2曲「アルマンド」は、厳かな静けさが感じられる瞑想的な演奏。
深い思い入れが、際限なく拡がっていくように感じます……。

第3曲「クーラント」は、情熱が弾けるような演奏…。

第4曲「サラバンド」以降は、この演奏の白眉だと思います!
緩やかな3拍子のこの宮廷舞曲は、周囲の空気を微動だにさせずに舞われる、まるで天上の舞のような優雅さ!

続く第5曲「ロンド」も素晴らしく、
恰も微動だにせずに回転する独楽のように、エネルギーを秘めつつも、それを微塵も感じさせない、凛とした静けさが!

第5曲からアタッカで続く第6曲「カプリチオ」におけるフーガは、
着想が次から次へと際限なく拡がっていくように、壮大な創造力を実感させる素晴らしい演奏!


円熟した彼女のピアノ・ソロをもっと聴きたいと願う反面、

若き日々の、触れれば鮮血が迸り出るような演奏が残されていることで満足すべきだろうという、

正直そんな印象を最近抱いています。

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