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ヨハネス・ブラームス:ヴァイオリンソナタ第1番

オーギュスト・デュメィ(Vn)  マリオ・ジョア・ピリス(P)


ウィーン楽壇の重鎮となったブラームス(1833-1897)は、40歳のころから雑事に煩わされることなく作曲に取り組めるように、毎夏を保養地で過ごすようになりました。

この曲も1878年に、夏季休暇で訪れたアルプスの山並みに囲まれた湖畔の街ベルチャッハ(オーストリア)で着想され、翌年夏に同地で完成されたもの。

当地で着想・作曲された交響曲第2番、ヴァイオリン協奏曲、ピアノ協奏曲第2番などと共通した、穏やかで牧歌的な安らぎに満ちた作品です。


尚、この曲の第3楽章には、1873年に作られたOp.59-3「雨の歌」とOp.59-4「余韻」という、雨にちなんだ2つの歌曲が使われていることから、通称『雨の歌』とも呼ばれています。

この2曲をクララは好んでいたと言われ、ブラームスの彼女への思いが憶測される作品でもあります。


デュメィとピリスのコンビによるこの演奏の特徴は、それぞれの楽器が出しゃばることなく、お互いに陰日向になって、仲睦まじく寄り添うように音楽が展開されること。

切々とした思いを語りかける、ため息のような第1楽章…。
言葉として雄弁には語られないヴァイオリンの奏する思いを優しく受け止め、寄り添うように奏でられるピアノ…。
この阿吽の呼吸の素晴らしいこと!
明るく活気のある第2主題は、内部に秘められた感情の迸りが素晴らしく表現されています。

第2楽章では、お互いに苦しみを分かち合うような、あるいは静かに見つめ合うような、精神的に純粋な法悦感に浸される至高の音楽。
ブラームスが求める愛の姿が、描かれているのでしょうか。
ここでの二人の演奏は、筆舌に尽くしがたい、至高のものだと思います。

第3楽章では、過ぎし日の想い出を歌うヴァイオリンのひそやかな音色と、そっと寄り添うように雨の滴りを思わせるピアノの響きの繊細さ…。


40歳代の半ば、功成り名を遂げたブラームスの到達した穏やかな境地が滲み出るような、充足感に溢れた作品…。

自己主張することなく、互いに呼吸を測り合っているからなのでしょうか、

中声部の充実ぶりが素晴らしく、ブラームスの美しさが際立った演奏と感じられます。

今後も折に触れて聴くであろう、私の愛聴盤です。

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