その時以来、長年にわたり19世紀フランスの画家アンリ・マティスの作品から受けた印象を曲にしたものと、誤って信じ込んでおりました。
当時、彼の静物画に描かれた「すもも」の鮮やかな色彩に惹かれていた私は、どのような曲として表現しているのかを大いに期待したのですが、2〜3度聴いてギブアップ…。
曲の難解さに圧倒されて、ライナーに書かれていたのであろう「画家マティス」に関する解説さえ頭に入らなかったのか、つい数年前まで誤解し続けていましたが…。
実際には、16世紀のドイツの画家であり、農民戦争の指導者でもあったマティアス・グリューネヴァルトのことだったのですね。
農民運動指導者としての行動力や、代表作『イーゼンハイム祭壇画』に感銘を受けたヒンデミットが、自ら台本を書いて、同名のオペラを作曲をし、
その中から、フルトヴェングラーのために抜粋・再構築して、3楽章にまとめたられたのが交響曲『画家マティス』なのです。
彼方から響いてくるコラール風の響きに、神からの啓示を受けたような神秘的な感動を覚える、第1楽章「天使の合奏」の感動的な冒頭部。
しかしながらフーガ風に扱われる主題部は、天使たちの無邪気な戯れの中に悪意が垣間見れるようで…。オペラ全曲を知らない私には、曲の意図は今一つ理解しがたいのです…。
第2楽章「埋葬」での、深い寂寥感を伴なった悲しみ!ブロムシュテットの感情移入を避けた透明な演奏は、この楽章の特徴を表現した素晴らしいものと感じたのですが、
その一方で「初演者フルトヴェングラーは、この楽章をどのように演奏したのだろう」と、おそらく好対照だったであろう演奏を想像して、そんな妄想に駆られました。
第3楽章「聖アントニウスの誘惑」は、アントニウスが魔物たちから堕落の道へと誘われる、そんな幻影を描いた音楽です…。
怒りや慟哭、悪魔の狂乱や哄笑、堕落、天国的な厳かさなどが聴き取れますが、最後はカノン風に展開し、高らかなコラールが奏されて、曲は終わります!
ベルリオーズの『幻想交響曲』のようなオカルト的な内容ではありませんが、結構面白い表現と感じました。
私自身、ヒンデミットの音楽には未だ馴染み切れてはいませんし、この曲もブロムシュテット盤が2枚目の体験。
楽譜が読めませんので、曲をより深く知るには聴き比べるしか方法はないのですが、ヒンデミットはもう少し集中して聴いてみたいと思いました。