彼の作品としては、交響曲・弦楽四重奏曲・ピアノソナタほどに注目されるものではありませんが、それでも古今のチェリストにとっては、大変に重要なレパートリー。
バッハの無伴奏チェロ組曲を旧約聖書に、そしてベートーヴェンのチェロ・ソナタは、しばしば新約聖書に譬えられるほどのものです。
チェロ・ソナタ第1番は、ベートーヴェンが25歳の1796年、ウィーン、ボヘミア地方、プロイセンと半年をかけて旅行をした時に、第2番とともに首都ベルリンで書かれたもの。
チェロの名手として知られたプロイセンの国王フリードリヒの恩寵を期待して書かれた、と推測されています。
若々しい野心に満ちているとともに、実に深みのある素晴らしい音楽に仕上がりました。
今日エントリーするのは、フルニエとケンプによる、1965年パリで録音されたもの。
この演奏の第1楽章の長大な序奏部(Adagio sostenuto)は、地に足のついた実に堂々とした演奏であると同時に、
この先どんな音楽が展開されるのか、そんなワクワク感をもはらんだ、いかにもベートーヴェンらしいもの!
主部でのチェロとピアノのやり取りは、
聴き手にとってはまるで賢者の討論を拝聴しているように、随所で精神的な満足感に満たされる、充実した内容の音楽です。
フルニエの奏するチェロの音色をビロードのような質感に譬えるとすれば、
対するケンプのピアノは、真珠のような淡い輝きを放っているような、
そんな高貴さすら感じられる、素晴らしいデュオです。
第2楽章では、希望に満ちた幸せな心が表現されているのでしょう。
しかしそれに満足することなく、曲が進行するにつれて、より高い理想を求めて、高みへと発展していく音楽!
精神的に充足した至福の時をを感じながら、静かに曲は終わります。
ベートーヴェンは恋をするにしても、生涯にわたって常に自分よりも身分の高い、貴族階級の女性を対象にしたとか。
そんな高い自尊心が、作曲へのエネルギーとなっているのかもしれませんが…。
この作品などは、崇高さの中にも、若き日の彼の野心の迸りが感じられる音楽。
初期の傑作ではないでしょうか!