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J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻

ピアノ:マウリツィオ・ポリーニ


17世紀までの鍵盤楽器は、全音階中の主要な完全五度と長三度和声的に美しく響くように調弦されていたそうですが、それ以外の調の曲では音が濁ってしまい、調が異なると調弦し直さなければなりませんでした。

これを解決したのが平均律で、1オクターヴを均等に12の半音に分けることで、同じ楽器で違う調が弾けたり転調ができたりと、多様な表現が可能になりました。

平均律という調弦の価値と、そのことによって表現力を増したこの楽器の特性を知らしめるべく書かれた作品が、2巻からなる『平均律クラヴィーア曲集』。

どちらも一対の前奏曲とフーガが、24全ての異なる調によって書かれています。


この曲集に関しては、19世紀の指揮者・ピアニストでもあったハンス・フォン・ビューロウは「音楽の旧約聖書」になぞらえ、

R.シューマンは「全ての音楽家の心にとっての日々の糧」と評するなど、

クラシック音楽の中でも別格の存在となっていることはご承知の通りです。


私にこの曲の素晴らしさを始めて認識させてくれた演奏は、リヒテルがザルツブルグのクレスハイム宮殿でセッション録音したディスク。

当初はロマン的という言葉で括っていたこの演奏でしたが、聴き込むほどに、曲ごとに瞑想的な奥深さを発見することができ、すっかり愛聴盤となっていたのです…。


ただ、「もし、今のポリーニがこの曲を弾いたら、どんな演奏になるのだろう」という興味を、21世紀に入った頃から強く抱いていました。

近年の彼の演奏は、綿密に解釈が施され練り上げられた上での、全く恣意の感じられない自然体のものだと思っています。

特に1980年代の後半に録音したシューベルトの後期三大ピアノ・ソナタ以降、

ショパンの『スケルッオ』『バラード・舟歌』などの演奏に聴ける、恣意が削ぎ落された、清らかな天上からの声を思わせるような演奏に最高に感動する半面、

同様な解釈で録音が継続されているベートーヴェンのピアノソナタでは、物足りなく思えていました。

その延長上で、ポリーニの平均律を想像していたのですが…。


思索に思索を重ねた上で演奏されたのであろう第1巻の24曲は、

まるで天上の泉から湧きあがった音楽が、そのまま地上へと降り注いできたように、

シンプルでひたすら美しいのですが、底知れぬ懐の深さが感じられる、素晴らしいバッハ!

第2巻の録音を待望しています。。 最近聴いたCD

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J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻

ピアノ:マウリツィオ・ポリーニ


17世紀までの鍵盤楽器は、全音階中の主要な完全五度と長三度和声的に美しく響くように調弦されていたそうですが、それ以外の調の曲では音が濁ってしまい、調が異なると調弦し直さなければなりませんでした。

これを解決したのが平均律で、1オクターヴを均等に12の半音に分けることで、同じ楽器で違う調が弾けたり転調ができたりと、多様な表現が可能になりました。

平均律という調弦の価値と、そのことによって表現力を増したこの楽器の特性を知らしめるべく書かれた作品が、2巻からなる『平均律クラヴィーア曲集』。

どちらも一対の前奏曲とフーガが、24全ての異なる調によって書かれています。


この曲集に関しては、19世紀の指揮者・ピアニストでもあったハンス・フォン・ビューロウは「音楽の旧約聖書」になぞらえ、

R.シューマンは「全ての音楽家の心にとっての日々の糧」と評するなど、

クラシック音楽の中でも別格の存在となっていることはご承知の通りです。


私にこの曲の素晴らしさを始めて認識させてくれた演奏は、リヒテルがザルツブルグのクレスハイム宮殿でセッション録音したディスク。

当初はロマン的という言葉で括っていたこの演奏でしたが、聴き込むほどに、曲ごとに瞑想的な奥深さを発見することができ、すっかり愛聴盤となっていたのです…。


ただ、「もし、今のポリーニがこの曲を弾いたら、どんな演奏になるのだろう」という興味を、21世紀に入った頃から強く抱いていました。

近年の彼の演奏は、綿密に解釈が施され練り上げられた上での、全く恣意の感じられない自然体のものだと思っています。

特に1980年代の後半に録音したシューベルトの後期三大ピアノ・ソナタ以降、

ショパンの『スケルッオ』『バラード・舟歌』などの演奏に聴ける、恣意が削ぎ落された、清らかな天上からの声を思わせるような演奏に最高に感動する半面、

同様な解釈で録音が継続されているベートーヴェンのピアノソナタでは、物足りなく思えていました。

その延長上で、ポリーニの平均律を想像していたのですが…。


思索に思索を重ねた上で演奏されたのであろう第1巻の24曲は、

まるで天上の泉から湧きあがった音楽が、そのまま地上へと降り注いできたように、

シンプルでひたすら美しいのですが、底知れぬ懐の深さが感じられる、素晴らしいバッハ!

第2巻の録音を待望しています。。

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