最近聴いたCD

ロベルト・シューマン:ヴァイオリン・ソナタ第1番

ギドン・クレーメル(Vn)  マルタ・アルゲリッチ(P)


1850年にデュッセルドルフのオーケストラの音楽監督として招かれ、環境の変化によって創作意欲が甦ったシューマンは、

その年の内に交響曲第3番『ライン』やチェロ協奏曲を完成させつつも、室内楽作品にも取り組みました。

ヴァイオリン・ソナタ第1番は、当時のライプツィヒ・ゲヴァントハウスのコンサートマスターで、メンデルスゾーンの『ホ短調協奏曲』の初演ソリストでもあったフェルディナント・ダヴィッドに促されて作曲したもので、

着想から推敲が終わるまでに、僅か5日間しか要しなかった(Wikipedia)と言われる作品。

私が室内楽に親しみ始めた25〜30年前には、複数の評論家から「創作力の衰えがみられる…」などと揶揄されていたように記憶していますが、

現在では「円熟期の傑作!」との評が主流となっているようです…。


第1楽章冒頭は、シューマンの全作品中でも最も印象的で美しいもの。
ヴァイオリンの奏でる音色を聴くと、沸々とたぎるような情熱とともに、
ある時には「美しく切ないため息」を、
ある時には「かぼそくすがるような不安な心境」を痛感し、
そのけなげさに心打たれる思いを抱きます。

第2楽章は、親しげな優しさや愛らしさが感じられる、寛いだ音楽…。

第3楽章は、夜の森の中を妖精が飛び回る、メルヒェンの世界を髣髴しますが、
あたかもメンデルスゾーンの『真夏の夜の夢』のように感じます…。

この曲を聴いていると、シューマンの心身が共に充実した、幸福な時期の作品のように感じるのですが…。


今日エントリーする演奏は、クレーメルのヴァイオリンと、アルゲリッチのピアノによるもの。

この二人の演奏では、丁々発止としたスリリングな演奏を期待するのですが、

今日エントリーした第1番は、珍しく和気あいあいとしたもの。

しかし、弱音部の美しさは、息を呑むような素晴らしさ!

シューマンが作った、珠玉のような作品の一つだと思います。

ホームページへ