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アレッサンドロ・マルチェッロ:
オーボエ協奏曲二短調

オーボエ:ハインツ・ホリガー
ヴィットリオ・ネグリ指揮  ドレスデン国立管弦楽団員


イタリアの作曲家アレッサンドロ・マルチェッロのオーボエ協奏曲は、第2楽章「アダージョ」が、1970年のイタリア映画『ヴェニスの愛』のテーマ曲として使われたことによって、広く知られるようになりました。

現在ではアルビノーニのそれとともに、バロック音楽の二大アダージョと呼ばれているとか…。


ところで映画の粗筋は、学生時代にヴェニスで知り合い、結婚そして別離を体験した二人が、時を経て男の希望で想い出の地で再会します。

若き日の想い出が懐かしく蘇りますが、二人の間に横たわる溝を修復すべくもなく、再び罵り合いに…。

ところが別れ際の捨て台詞で、初めて男が白血病に侵され余命いくばくもないことを知った女は、それまで張りつめていた男に対する気持が音を立てて崩れてしまいました………。

ヴェニスの街にも黄昏が迫り、永遠の別れを告げる二人。

オーボエ奏者の男は、最後の仕事になるであろうマルチェッロの『オーボエ協奏曲』第2楽章の収録のために古い教会へと向かい、

女は、茫然自失の状態で夜の闇へと消えていく…、こんな物語です。


この曲にはハ短調と二短調の二つの版が存在するそうです。

どちらにもそれぞれの持ち味があるようで、

有名なオーボエ奏者でも、ピエルロやコッホ盤は「ハ短調」版を、

ホリガーやのシュレンベルガー盤は「二短調」版を使用しています…。

絶対音感のない私でも、曲の始まりでこそ音色の違いに違和感を覚えますが…。

でも幸いなことに、すぐに違和感は解消されて、どちらの調性でも曲を楽しむことができるのです…。

ただ、私が聴いたハ短調盤の印象は、冒頭の弦の音色はややくすんだように聴こえますが、逆にオーボエの音色が冴え冴えと感じられて、痛いような悲しみが伝わってきます。

一方、弦の柔らかく透明な音色で開始される二短調は、オーボエの深みのある音色から、思索やため息といった深い感情が吐露されているように思います。


今日エントリーするのは、1972年に録音されたヴィットリオ・ネグリ指揮するドレスデン国立管弦楽団員による演奏で、オーボエはハインツ・ホリガー…。

イ・ムジチに代表されるイタリアの合奏団のように、明るく澄んだ演奏とは異なりますが、

暖色系の柔らかい落ち着いた音色をバックにしたホリガーの演奏は、真摯で深い感情を表現した、素晴らしい演奏と感じます。

でも、ハ短調版の冴え冴えとした、透明感あふれるオーボエの音色も捨てがたい味わいを有したもの。

カラヤン時代のベルリン・フィルの名手ローター・コッホの演奏で、是非とも聴いてみたいと思っています。

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