ケーテンの宮廷歌手だった15歳年下のアンナ・マグダレーナと再婚した頃に作曲した、クラヴィーアの為の舞曲集。
アンナとの交際の期間に書かれたようで、このうち1〜5番までは、バッハが新妻に贈った『アンナ・マグダレーナ・バッハの音楽帳・第1巻』にも含まれており、
歌手であった彼女が、専門外のピアノを演奏することを念頭に置いて作曲されたものと考えても、差し支えなさそうです。
そのためか『フランス組曲』は、同じ舞曲集の『イギリス組曲』や『パルティータ集』と比べると、
比較的小規模で演奏も容易、かつ全曲にわたって親しみやすい曲が散りばめられています…。
尚、この曲集の命名はバッハ自身によるものではなく、
優雅で親しみやすく洗練された曲の性格を、後年の研究者が「フランス趣味で書かれている」と述べたことに由来するようです。
今日エントリーする第5番は、バッハのクラヴィーア作品中もっとも優美な作品として、人気の高いもの。
ここのところエミール・ギレリスの演奏が気に入って、繰り返し聴いています。
第1曲:アルマンドの洗練された穏やかさの中、転調部での微妙な心のたゆたいを思わせる表情の変化は、絶品としか言いようがありません!
第2曲:クーラントは、対照的に活気に溢れた弾むようなリズムが印象的。
第3曲:サラバンドの、厳かさを湛えた幽玄な調べ…。
第4曲:ガボットと第5曲:ブーレでは、活気溢れるリズムの素晴らしさが!
第6曲:ルールでは、まどろみの中に鐘の音が響くような、牧歌的な雰囲気を感じます。
第7曲:ジーグは、活気溢れるステップを目の前で見るような、活き活きとした躍動感あふれる、唖然とするような素晴らしい演奏。
1960年、ギレリス44才時のこの演奏は、「ジーグ」に聴けるような完璧なテクニックもさることながら、
「アルマンド」「サラバンド」「ルール」のような緩やか曲における、甘さや華麗さが抑制された格調高い演奏は、
聴くたびに味わいが深まる、素晴らしいもの。
一聴されることを、強くお薦めしたいディスクです。