最近聴いたCD

ベンジャミン・ブリテン
歌劇『ピーター・グライマズ』より
『4つの海の間奏曲』

ヴァーノン・ハンドレー指揮  アルスター管弦楽団


このオペラの舞台設定は、1830年頃のイギリス北東部の北海に臨んだ漁村。

この頃(産業革命以前)のイギリス社会では、安い賃金で少年を徒弟として雇用し、当たり前のように過酷且つ長時間の労働を強いる風潮があったそうです…。


日常の粗暴な態度のために、周囲の人々から疎んじらてきた漁師ピーター・グライムズ。

その徒弟が、漁に出た船の中で喉の渇きを訴え死亡。

業務上過失致死か殺人かが法廷で争われることになりましたが、

ピーターをよく思わない周囲の人々は、彼が意図的に侵した殺人だと確信します。

法廷では証拠不十分との理由で、「再び事件を繰り返さないためにも、今後徒弟を雇わないように」との勧告のもと、無罪判決が下されますが、

ピーターへの疑念はふかまり、周囲からはますます村八分にされていきます…。


「金さえあれば、家が買える」「貧乏な生活から解放される」「人々の信頼も得られる」「噂好きな連中を黙らせることができる」と信じ、

多くの富を得て人々を見返すために、懸命に働いてきたピーターでしたが、

彼の唯一の心の安らぎは、未亡人でもある学校の女性教諭エレナの存在。

彼に同情を示し、何かとよくしてくれる彼女を、いつかは妻として迎えることを夢見て、

嵐の日にも漁に出るなど、これまで以上にがむしゃらに働きますが、

それすら周囲の目には拝金主義者と映り、溝は深まる一方。


仕事を手伝ってくれる人もないために、止むを得ず新たに雇った徒弟に自分と同じように働くことを求めますが、ままならず、苛立ちの為に暴力をふるうこともしばしば…。

そのことを注意したエレナに暴力をふるったために、

抗議のために、群れをなしてピーターの住む小屋へと押しかける人々を見て、

追い詰められたピーターは身を隠すため、徒弟とともにロープ伝いに崖を降りて舟で難を逃れようとしますが、徒弟は手を滑らして崖下へ…。


2人の徒弟を死によって失ったピーターは、身の置き場のない立場を古老に諭され、舟を沈めることにって、自身を世間から抹殺したのでした。

翌朝、人々は彼の舟が沈んだという知らせを聞きますが、いつも通り何事もなかったように、それぞれの生活が始まります。

児童虐待に始まり、村八分、(恐らく)冤罪、お節介、拝金主義、挙句の果ての無関心等、今日的な問題を提起した社会派オペラと位置付けることも可能な作品。


『4つの海の間奏曲』は、文字通りオペラ中の間奏曲を管弦楽のみで演奏したもので、第1曲『夜明け』、第2曲『日曜の朝』、第3曲『月光』、第4曲『嵐』によって構成されています。

『夜明け』は、北国の寒々とどんよりした海に、雲間から一条の光が射すような趣が感じられる音楽。

『日曜の朝』では、鐘が鳴り、教会へと向かう人々の様子が描かれた、日常的な平和な姿が描かれます。

『月光』は、雲間から洩れる月の光を思わせる風情が…

『嵐』では、北海の自然の脅威が実感できる凄まじい音楽が…。


ハンドレー/アルスター管弦楽団の演奏は、色彩感を抑えた、実直で厳しい演奏!ブリテンのこの曲に相応しい演奏と感じました。

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