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アルチュール・オネゲル
交響的断章(運動)第1番『パシフィック231』

デヴィッド・ジンマン指揮  チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団


アルチュール・オネゲル(1892-1955)は、スイス人の両親のもとにフランスのルアーブルで生まれ、活躍の場もパリが中心でしたが、

籍をチューリッヒに置き、スイスとは生涯繋がりを持ち続けました。

彼に作曲家になることを勧めたのも、チューリッヒ音楽院院長で、ト−ンハレ管の創始者でもあった人物ですし、

第一次世界大戦では、スイス軍兵士として従軍したほどの愛国者。

1923年に書かれたエントリー曲の『パシフィック231』も、親交の深かったスイス人指揮者エルネスト・アンセルメに献呈されています。


ドビュッシー、ラヴェル、フォーレ、プーランク等に代表されるフランス音楽とオネゲルの作品に、どこにも接点を見出すことができませんでしたが、

「対位法に基づいた優れた構築力を骨格にした、筋肉質な力強さを有する」という内容の記事(出典は失念)を読んで、その存在が漸く納得できたものでした…。


『パシフィック231』とは、蒸気機関車(SL)の型名のこと。

オネゲルが純粋に数理的なリズム構造や、音の運動の形に着目して作曲されたと言われています。

難しい理論は分かりませんが、そういった緻密な設計に基づいて書かれたこの作品を聴くと、

発車前の蒸気を吐きだしているSLの描写に始まり、

発車時の車輪が動き出す重々しいエネルギー感、

徐々に加速していく力強い躍動感、巡航速度に達したリズミカルな快速感、

車体を軋ませながら減速していく重量感…

曲の内容がリアルに実感できるうえに、聴き手それぞれのイマジネーションが湧いてくるであろう、内容の濃い音楽だと思います。


本来ならば、初演者でもあるアンセルメ盤をエントリーしたいところですが、LPを手放してしまい、どんな演奏だったかは忘却の彼方に…。

そこで、作曲者と因縁浅からぬチューリッヒ・トーンハレの、力感そこそこ、快速感なかなか、という趣の演奏をエントリーしておきます。

色んな演奏を聴き比べると、聴いた数だけの種類のSLに巡り会えるとおもいます!

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