夫人はリストとの生活を送るためにワイマールのアルテンブルグ宮殿を入手して、同居生活が始まりました。
しかし二人の念願であった結婚は認められることなく、
1861年には共に俗世を捨てて修道院に入り、信仰生活を送ることになります。
もともと、その名の通り練習曲として作られたものですが、
夫人との同居生活を送り始めたばかりの幸福感に包まれつつも、結婚が認められないジレンマに陥ったリストの心境を反映するかのような、切なくも甘美な詩情に溢れた音楽で、しばしばコンサートにも採り上げられています。
なお、各曲に付けられた「悲しみ」「軽やかさ」「ため息」の標題は、この曲がフランスで『3つの詩的なカプリース』として出版される際に、リスト自身によって命名されました。
第1曲「悲しみ」は、恋焦がれる気持の高まりと、満たされない何かが相半ばするような音楽ですが、全体としては幸福感に包まれた音楽。
第2曲「軽やかさ」は、華麗さの中に光と影が交錯しますが、しみじみとした深い思いが、最後に訪れます。
第3曲「ため息」は、左手が奏するアルペッジョに乗って、儚く甘美な旋律が奏でられる、大変に印象的な音楽です。
アラウの演奏は、感情の静かなうねりを感動的に表現した極め付きの演奏と思います。
とりわけ、第1曲での満ち溢れる幸福感の中に、満たされぬ心寂しさがふと忍び寄る気配には、目頭が熱くなってきますし、
第3曲の前述した左手のアルペッジョは、際限なく拡がる波紋のように、感動が深く静かに心に沁み入ってきます。
演奏が曲の内容を凌駕した、極めつけのディスクと思うのですが…。