7曲ある交響曲や10曲を超える交響詩、幾つかの劇付随音とヴァイオリン協奏曲といった、
フィンランドの大自然や、そこに脈々と流れる歴史を題材にした、壮大なドラマを思わせるオーケストラ曲を思い浮かべます。
そんな中、青年期の習作に始まり後期のOp.114に至るまで、コンスタントにピアノ曲を書き続けてきました。
彼のピアノ曲は、北欧特有の仄暗く物淋しい情緒を漂わせつつも、
オーケストラ作品のようなドラマティックな曲想は一切なく、
身の周りの人々や風物に注ぐまなざしのように、私的でひそやかな心情を吐露したような、規模の小さな愛らしいものばかりです。
今日エントリーする『5つのロマンティックな小品』は、そんなシベリウスのピアノ曲の中でも、とりわけ美しい旋律をもった親しみ易い作品群だと思います。
第1曲から順に付けられた曲名、「ロマンス」「夕暮れの歌」「抒情的情景」「ユーモレスク」「ロマンティックな情景」を見れば、その曲想が自ずと理解できるものばかり…。
中でも第1曲「ロマンス」には、待ち焦がれた北欧の遅い春の訪れを迎える、滲み出るように湧きあがるしみじみとした喜びが…、
第5曲「ロマンティックな情景」では、甘く美しい青春の想い出がこみ上げるような…
そんな感慨に溢れた、大変に美しい音楽です!
洗練されたタッチで奏でられる田部京子の抒情的で繊細な音色は、彼女のもつ感性とあいまって、
「愛おしさ」「恥じらい」といったさりげない感情の表出に、群を抜いた表現力を発揮すると感じています。
この曲集では、とりわけ第1、5曲に、その真価が発揮されていると思います…。
ただ第2、3、4曲目などは、暖かい部屋でソファーで寛ろぎながら、外の情景を眺めるような感慨…。
才能豊かなピアニストだけに、「もう一歩踏みこんだ表現を!」と願っているのですが…。