ボストリッジは、オクスフォード大学やケンブリッジ大学で、博士課程を終了させた秀才でもあり、
美しく繊細な声と表現力から、知的・耽美派テノールと呼ばれる逸材。
少し以前の音楽誌に掲載されていた、ボストリッジの来日公演時のインタヴュー記事を読んでいると、
「プログラムを組む時は、常に何らかのストーリーを想定し、“心の旅”のような流れを作ろうとしています」
こんな内容の発言をしていることに、目が止まりました。
プロの演奏家であれば、言い方はそれぞれに違うでしょうが、誰しも同様な意図でプログラムを構成すると聞いています…。
ある意味、当たり前とも言える彼の発言に興味を惹かれた理由は、
バラバラに作曲された21の歌曲を収録した『シューベルト歌曲選集U』のCDを初めて聴いた時、
曲の進行につれて、聴き手(私)の創造力がどんどん掻き立てられていくという滅多にない体験が記憶に残っていたために、
「なるほど、そういう考え方か!」と共感できたからです。
どこまでも澄み切ってよく伸びる魅力的な高音部と、柔らかく暖かい響きの中・低音部を絶妙にコントロールしながら、
一音一音を細心の繊細さをもって明晰に表現するのが、彼の歌唱の特徴だと思います!
「知的で耽美的なテノール」と評される所以でしょうが、そんなボストリッジの歌唱ゆえに、
普段は自分の感性に身を委ねるだけで、歌詞の意味など考えずに聴くだけの私でも、
詩の内容に興味を抱き、辞書を片手にすることもしばしばでした…。
「双子座の星に寄せる歌」から「幽霊の踊り」に至るまでの21曲。
多分ボストリッジ好みの内省的な作品を中心に収録されているのでしょうが、シューベルトの歌曲の美しさが堪能できる逸品!
私に愛聴盤として、末長く聴き続けるディスクになると思います。