その間、『ピアノソナタ第30〜32番』を1820〜22年に、
『ディアベリ変奏曲』を1823年に、
『ミサ・ソレムニス』を1824年に、
交響曲第9番『合唱』を1825年完成させた後は、
50歳台半ばになっても尚とめどなく溢れ出る創造力は、弦楽四重奏曲第12〜16番の完成へと注ぎこまれることになりました。
若い頃は専らオーケストラ曲かピアノ曲にしか興味がなく、40歳手前までは地味な室内楽に親しむことができなかった私が、
「人生体験を積まないと理解できない」と真しやかに言われていたベートーヴェンの後期弦楽四重奏曲だけは、
暇だけはたっぷりあった学生時代に、例外的に繰り返し何度も聴いたものでした。
今思えば、曲の理解云々はともかく、
ベートーヴェン後期の作品の一部分に、崇高なまでの精神的な高みを感じ取り、それに耽る喜びを楽しんでいたのだと思います。
今日エントリーする第12番は、後期作品の中では特に強い印象を受けるでもなく、それほど聴き込んだ曲でもありませんでした。
しかし、メロスSQの演奏で第1楽章冒頭Maestoso部の決然とした、しかし透明感さえ感じられる柔らかい響きを初めて聴いた時、
それまでこの曲から気付くことがなかった神秘的とも幻想的ともいえるオーラを感じ、一瞬にしてこの演奏に惹かれてしまいました。
それに続く主部でのヴァイオリンが奏でる主題の小鳥の囀りのような軽やかさは、
あらゆる呪縛から解き放たれた精神が自由闊達に飛翔する、そんな喜ばしい感動を覚える演奏!
曲から受ける印象こそ随分変わりましたが、
学生時代の音楽に対する情熱を、久しぶりに思い出しました。
第2楽章、静謐な主題の提示に続く5つの変奏曲は、
磨き上げられたアンサンブルが、随所で美しく花開くような趣を有する、
喜怒哀楽の感情を超越した、実に奥の深い演奏が展開されています!
第3楽章は、謎かけの対話を髣髴させるようで、ユーモアを感じつつ、かつ十全な満足感が得られるような音楽です。
そして第4楽章は、表情を変えつつも、解決に向かって力強く邁進するような、喜々として高揚した音楽です!
メロスSQの、聴き手にインスピレーションを与える素晴らしい演奏を聴いて、
自らの体調不良から死を予感しながらも、
残された日々に、寸暇を惜しんでこのような素晴らしい音楽を書きあげたベートーヴェンの偉大さに、改めて感服している次第です!