最近聴いたCD

ヘクトル・ベルリオーズ
交響曲『イタリアのハロルド』

ピンカス・ズッカーマン(Va) 
シャルル・デュトワ指揮  モントリオール管弦楽団


ベルリオーズの優れた楽曲の多くは、文学作品に触発されて作曲されたと言われています。

『幻想交響曲』のように自叙伝的性格を持つ作品ですら、トマス・ド・クインシーの『或る英国人阿片常習者の告白』に着想を得たと言われていますが、

今日エントリーする『イタリアのハロルド』も、19世紀を代表する英国の詩人バイロン(1788-1824)の物語詩『チャイルド・ハロルドの巡礼』が下敷きとなっています。

神秘的な憂鬱と情熱を抱く美貌の男爵(バイロン自身)の恋愛遍歴は、当時の多くの貴婦人を虜にしたと言われています。

但し、詩の内容と楽曲の構成の関係は希薄と言われますが、

「恋人に裏切られた主人公が、世をはかなんで旅に出、夢想や追憶に耽る心情」という共通点は見いだせるようです…。


ヴィオラ独奏を伴なった交響曲とも呼ばれるこの作品は、

【第1楽章:山の中のハロルド(憂鬱と幸福と歓喜の状況) 】
冒頭の低弦でゆったりと奏される、暗闇を逍遙するような開始部の雰囲気が、
一転して、ハープのアルペジオを伴なってヴィオラが奏する晴れやかで幸福感に満ちたハロルドのテーマの印象的な美しさ!
活気に満ちたAllegro部は、夢と希望に満ちた旅立ちを思わせます。

【第2楽章:夕べの祈りを歌う巡礼の行進】
山の教会で賛歌を歌い、旅立ってゆく巡礼の一行を表わすオケパートの荘重さと饒舌さを併せ持った音楽と、
相容れることなく奏されるヴィオラ独奏との同時進行は、ハロルドの孤独感がいや増すように感じられます。

【第3楽章:アルブッチの山人が、愛人に寄せるセレナード】
Wikipediaによると、毎年クリスマスの頃にアルブッチの山中からローマにやってくる牧童が吹奏する民謡を転用した音楽とのこと。懐かしい哀愁が感じられますが、やはりヴィオラ独奏とは相容れずに同時進行することによって、ハロルドの孤独感が…。

【第4楽章:山賊の酒盛りと、過去の情景の想い出】
山賊に捉えられて宴の場に居合わせた、という設定なのでしょうか?
過去を回想しつつも、やがて酒宴の雰囲気に呑み込まれていくハロルド…。
よもやバッカスの神を賛美する曲ではないのでしょうが、その圧倒的な盛り上がりに、有無を言わさずに陶酔していきます…。


LP時代には、ミュンシュ指揮するボストン交響楽団の圧倒的な盛り上がりに陶酔した記憶がありますが、

デュトワの演奏からは、過大な感情移入を避けて奏される中、

曲の美しさとハロルドの若者らしい寂寥感が感じられて、最近はこの演奏に手が伸びることが多くなりました。

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