弦楽四重奏についても、やはりベートーヴェンの16曲を意識するあまりに、1873年に第1、2番を発表するまでに8年の歳月を要したと言われますが、
それ以前に書かれた20曲に余る習作も、すべて破棄されたとか…。
曲想も、ベートーヴェンの中・後期に分類される7〜16番を意識したせいか、
同じく弦だけで奏される弦楽五、六重奏曲の伸びやかさと比較すると、やや難渋な印象を受けるのは避けられないと思います。
今日エントリーする弦楽五重奏曲第1番は、ブラームス49歳の1882年にオーストリアの保養地バート・イシュルで完成されたもの。
弦楽四重奏にヴィオラが追加された楽器編成になっていますが、
ヴィオラの音色がとりわけ美しく書かれた、若々しくのびのびとした曲だと感じます。
第1楽章冒頭から奏でられる第1主題から、ブラームスらしい密やな感情の表出ながらも、
新しい出会いに心ときめく様な、明るくのびのびとした旋律が奏でられます。
ウィーンでの日常から離れて、解放された気持が伝わってくるような美しい音楽です!
第2楽章の始まりは、成熟した情熱とでも表現すればよいのでしょうか。
心身ともに落ち着き払った、高貴な感情を漂わせる充実した音楽です。
途中のAllegretto vivaceとPrestoでは、愛らしい無邪気な感情が表出されますが、
最後には、崇高な感情の高みを感じさせながら、静かに曲を閉じます。
第3楽章は、親しい人たちに囲まれた団欒のひと時を思わせる、心浮き立つような楽しい音楽…。
ヴェロニカ・ハーゲンによるものか、客演のジェラール・コセに負うものかは分かりませんが、この演奏でのヴィオラパートの美しさは秀逸だと思います。
曲のもつ初々しさがいかんなく表現された、素晴らしい演奏!
「ブラームスの室内楽は難渋過ぎて…」と躊躇される方にも、お薦めできると思います。