彼を敬愛する門人フェンビーに一音符ずつ口授しながら、死の前年まで創作活動を続けました。
彼の音楽の最大の魅力は、声を大にして主張するようなところは皆無であり、
巧みな自然描写によって聴き手の心を和らげ、自ずと感動の高まりへと導く、その手法にあると何かで読んだ記憶があります。
その通りだと思いますし、表現においても、或いは様式においても、比肩するものがないほどに個性的な音楽ですが、
敢えて分類すれば、印象派的なロマン主義者の範疇に入ると評されています。
今日エントリーする『丘を越えて遥かに』は、
1995〜97年にかけて、遠く離れた彼の故郷イングランド北部のヨークシャー地域の丘陵と荒地をイメージしながら、パリで作曲されたもの。
イングランド特有の深い霧に包まれた自然の刻々と移ろいゆく光と陰や、
そこに昔から伝わる英雄伝的な叙事詩、
懐かしい民謡風の舞曲等が描かれた音楽からは、心地良い望郷の念が感じらます。
指揮者のトーマス・ビーチャムは、ディーリアスとの親交が厚く、
彼の詩情溢れる音楽を高く評価した上でコンサートプログラムに定着させ、
時に自身で手直しした校訂版作るなど、
「ビーチャムが完全に同化出来る作曲家だった(EMIプロデューサー:ウォルター・レッグ)」と言われています。
そのせいか、彼のディーリアス演奏を聴くと、
作られたような感傷とは一線を画した、共感溢れるしみじみとした感慨を抱くことができます。
この演奏で特筆すべきは、静謐な感慨に満ちた、ホルンの響きの美しさ!!
調べてみると、どうやら当時のロイヤルフィルの首席ホルン奏者、名手デニス・ブレインによる演奏のようです。
このホルンの響きによって、この曲が一層引き立つように思いました。