同じチェコ国民学派の先輩で、西部のボヘミア出身のドヴォルザーク(1841-1904)を敬愛し、大きな影響を受けましたが、出身地の文化や民族音楽の違い以上に、作風は全く異なっています。
ドヴォルザークの場合は、スラヴ舞曲に聴けるように、リズムパターンを反復する舞踏的構成のボヘミア民謡の旋律やリズムを直接の素材として扱ったのに対し、
ヤナーチェクは、モラヴィア民謡の旋律やリズムを直接的に引用することは一切しませんでした。
1886年以降、モラヴィアの様々な地域に出向いて民謡の採譜を進めたヤナーチェクは、
反復構造を持たず、なだらかに推移していく旋律を、「当地の話し言葉の抑揚から生まれた」と考え、
それを自らの音楽の語り口として作曲したと言われています。
それは民謡のみにとどまらず、人の話した言葉や動物の鳴き声等、自然界のあらゆる音を採譜したとか…。
彼の代表的な作品を聴いて感じる特殊な感慨、
例えば晴天時に俄かに雨が降り始めた時に香り立つ「土の匂い」や、
「草いきれ」のような“臭覚”が呼び覚まされるのは、
そんな作曲家の工夫によるものなのでしょうか…。
今日エントリーする『弦楽のための牧歌』は1978年、ヤナーチェク24歳の時に完成されたもの。
ヤナーチェクの生まれ故郷、ブルノを本拠地とするブルノ・フィルハーモニー管弦楽団、指揮は同市で生まれ育ったフランティシェク・イーレクによる演奏です。
『シンフォニエッタ』『タラス・ブーリバ』『弦楽四重奏曲第1、2番』といった有名曲からヤナーチェクの作品を聴き始めた私には、
この『弦楽のための牧歌』は、何ともロマンティックで親しみ易い旋律と感じました。
しかし、エントリーした演奏からは、それに加えて大気の香りが感じられるように思えます。
年代的に考えると、この曲はモラヴィア民族音楽の語法を意識する以前の作品かもしれませんが、
それでもこの本場の演奏からは、後年の作品に感じる“臭覚”を呼び覚まされます。
本場物に拘るつもりは毛頭ありませんが、後年の作品の特徴がほのかに感じられるこの演奏、
馴染みやすいヤナーチェクと言う点からも、お薦めできると思います!