ネイティヴアメリカンや黒人の音楽に接することによって大いに刺激を受け、
これまでの作風とは異なった創作活動の絶頂期を飾ると評される『新世界交響曲』『弦楽四重奏曲第12番“アメリカ”』『弦楽五重奏曲第3番』『チェロ協奏曲』等の作品を、遠く離れた祖国への望郷の念を抱きながら作曲しました。
渡米後の最初の夏を、嘗ての教え子に招かれて、チェコから移民した人が多く住むアイオワ州スピルヴィルで過ごしましたが、
ここでの寛いだ気分が、短期間で前述した2つの室内楽の名作を生みだしたと言われています。
エントリー曲の『弦楽五重奏曲第3番』は、『アメリカ』ほどに広く知られてはいませんが、基本的には同一線上にあるもの。
着手してから1カ月余りで完成したと言われ、彼のアメリカでの充実した生活と、故国へのノスタルジーに溢れた、幸福感に満ちた作品と言われています。
第1楽章、ヴィオラが奏する印象的な旋律は、少しメランコリーなノスタルジーに溢れた印象的なもの。
黄昏時に故郷を思うような趣が溢れた楽章です。
第2楽章主部を刻むリズムはインディアン音楽と言われますが、この楽しげなリズムに乗って歌われる少しメランコリーな旋律…。
アメリカとチェコを折衷したような、味わいのある音楽です!
中間部のヴィオラが奏する旋律は、望郷と言うには余りに痛切に感じられます…。
第3楽章は変奏曲のような形式…。穏やかな心境の中、ふと遠く離れた故郷を想う心が情緒纏綿と語られる、美しい音楽です。
ヴィオラの翳りのある音色が、心に残ります。
第4楽章は、明るく楽しげな音楽。ここにもインディアン風のリズムが使われ、愉悦感に満ちたままに曲は終わります。
私はこの曲を聴くたびに、意気揚々と新世界に乗り込んできた、心身ともに充実した幸せなドヴォルザークの姿が垣間見れるように思えます。
ヴィオラにヨゼフ・スークを迎えたスメタナ弦楽四重奏団の演奏は、そんなドヴォルザークの心境を反映したかのように、のびのびとした自由闊達な演奏!
弦楽五重奏という編成が少ないせいかもしれませんが、演奏会でももっともっと採り上げてほしい一曲です。