最近聴いたCD

フランツ・リスト:歌曲集(16曲) 

白井光子(メゾ・ソプラノ)  ハルトムート・ヘル(ピアノ)


今日のエントリーは、白井光子さんがハルトムート・ヘル氏の伴奏で歌ったリストの歌曲集、1988〜9年にかけての録音です。

近年白井さんは、ギランバレー症候群という筋肉を動かす運動神経が障害されることにより、四肢に力が入らなくなる難病に罹患され、一時期歌えない状態だったようですが、リハビリは順調に進んでいるのでしょうか…。

昨年(2009年)の秋に行われた、ヘル氏とのデュオ・リサイタルは成功裡に終了し、

鳴りやまぬ拍手に応えて、さらに何曲ものアンコーる曲が歌われたとか!

日本が生んだ国際的なメゾ・ソプラノの楽壇への完全復帰を、心から喜びたいと思います。


滑らかな旋律の流れと、詩の解釈が透徹していればこそ表現が可能となるのであろう、フレーズごとのニュアンスの豊かさ!

ドイツ語は(も)殆ど理解できない私ですが、彼女のそんな素晴らしい表現力のお蔭で、詩の意味が感じ取れるような錯覚に陥ります。

だからこそ、私にとっての白井さんの歌うドイツリートは、人の心をほのぼのと包み込むような柔らかい声とともに、初めて耳にした時から、親しみが抱けたのだと思います。


リストの書いた約80曲の歌曲の中から選ばれた16曲も、それぞれの詩からリストが感じたであろう深遠なロマンの色濃い感情を、透徹した解釈で表現した名演奏だと思います。

例えば詩人ハイネの詩に曲を付けた『ローレライ』(日本ではフィリップ・ジルヒャーが書いた美しい曲に付けられた、「なじかは知らねど心わびて…」の歌詞で親しまれています)、

「Der Gipfel des Berges Im Abend sonnen scheinen;(入り日に山々赤く映ゆる)」の部分での、大気の質感や空の色彩が一瞬のうちに茜色に変化するような絶妙の美しさや、

「Ich glaube,die Wellen verschlingen Am Ende Schiffer und Kahn;(波間に沈むる人も舟も)」の、色香漂う妖しさから一転して地獄の底を垣間見るような恐怖感への変化が…


ヴィクトール・ユゴーの詩(ドイツ語訳)に付けられた「夢に来ませ」では、

「du blickst,ein Stern,wie aus himmlischen Räumen(あなたが眼差しをくだされば、それは天に輝く星のように)での、瞬時に憧れが訪れたような陶酔の世界が表現されています。

選ばれた16曲の殆どから、リストの歌曲のもつ独特の奥深いロマンが堪能できる、素晴らしい歌唱だと思います。、

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