当時は、後に妻となるクララと恋に落ち、婚約を誓ったものの、クララの父の逆鱗に触れ、悶々とした状況が続いていた時代。
シューマンとクララは、結婚後に8人の子宝に恵まれますが、第一子の誕生は結婚翌年の1842年のことで、この曲の誕生と、我が子の誕生や成長とは無論関連がありません。
シューマンがクララへ宛てた手紙には、この曲について、以下のような文面が記されているそうです。
“いつか君は僕に言ったでしょ、「あなたは、時々子供のように思えます」って。君のそんな言葉が僕の心に残っていて、まるで魔法の筆のような働きをして30もの小さな可愛い曲が書けたのです”<田部京子『子供の情景』のライナーノートより>
愛する異性の愛情に強く支えられたシューマンの心のゆとりから誕生した、幸せな曲たちなのでしょう…。
その中から、彼自身によって13曲が選ばれ、『子供の情景』と名付けられました。
この曲は、老大家から新進気鋭のピアニストに至るまで、実演やディスクを通じて様々な演奏を聴いてきました。
時には、気どりや過剰な感情移入が耳障りと感じられる演奏にも出遭いましたが、
殆どの演奏からは、それぞれに紡ぎだされる、愛らしさ、慈しみ、過ぎし日々への憧憬等々の、心地良い感情を演奏者と共有することができたように思います!
今日エントリーするのは、クララ・ハスキル(1895−1960)が1955年に録音したもの。
一聴すると何気なく聞こえる彼女の演奏ですが、そのフレージングや音色の微妙な変化を聴いていると、一曲一曲から格別な深い慈愛に溢れた、神々しさすら感じられます。
多分モノラル録音からCD化されたものだと思うのですが、鑑賞するには一向に支障は感じられません。
それぞれの方にとってのそれぞれの名演が数多有る曲だとは思いますが、機会がありましたらこのハスキル盤も、ぜひ一度お聴きになることをお薦めします!