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W.A.モーツァルト:ピアノ協奏曲第21番 

ゲザ・アンダ指揮・ピアノ
ザルツブルグ・モーツァルテウム・カメラータ・アカデミカ


1784年2月以降、モーツァルトは自作品の目録を付け始め、それが現存しているとか。

この目録のトップを飾っているのがピアノ協奏曲だそうですが、

その事実からも、モーツァルトがいかにこのジャンルの作品を重視していたかを物語る証拠と考えられています。

目録によると、モーツァルトは1784〜86年にかけて、第14番〜25番の12曲のピアノ協奏曲を集中的に作曲していますが、

とりわけ第20番以降は、彼の全ての作品中でも大変に高い評価を得ている傑作群と言えるでしょう。


モーツァルトは、暗い曲の後には明るい曲を書く傾向があると言われますが、

今日エントリーする第21番も、前作の悲劇的な色調の濃い20番の二短調ピアノ協奏曲と対比されることが多く、明るく清らかな作品として評価されています。

尚、この曲の第2楽章は、1889年にスウェーデンで実際に起こった事件をテーマに、1967年に悲恋物語として映画化された『短くも美しく燃え』のテーマ曲として、一躍世界中に知られるようになりました。


ディスクは、ハンガリー生まれで、スイスに亡命し国籍を取得したピアニストのゲザ・アンダ(1921-1976)の弾き振りで、オーケストラはザルツブルグ・モーツァルテウム・カメラータ・アカデミカ(1961年録音)。

実はこの演奏が映画のサントラ盤に転用されていますので、映画をご覧になった方が聴かれれば、懐かしいワンシーンが蘇るかもしれませんね!


第1楽章は、きびきびと弾むような、実に颯爽とした表情とテンポで開始されます!
気どりが全く感じられない実直そのものの演奏なのですが、
堅苦しさとは無縁で、ワクワクするような楽しさや期待感が随所に感じられます。

第2楽章は端正なリズムに刻まれながら開始されますが、常に凛とした表情の漲った、静謐さを湛えた演奏!
木管の音色も、実にエレガントなもので、これを聴いていると、映画では二人の一途な愛を感動的にサポートしたのだろうと、勝手に推測しています。

第3楽章は、けれんみが全く感じられない、無邪気で真っ直ぐな演奏です。
特に楽章終盤のカデンツォ部分の破天荒なまでの表現には、モーツァルトの演奏ではこれまで耳にしたことがなかった、斬新さが感じられました。


彼は、フルトヴェングラーをして「ピアンの吟遊詩人」と言わしめたほどの逸材でした!

彼の演奏を聴くと、手垢にまみれた楽曲を一から洗い直したうえで、

奇を衒うことなく、これぞ正統と感じさせる素晴らしい音楽として表現し得る、稀にみる才能の芸術家だったと思えるのです。

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