ただ、ストーリーが好きでないために、演奏時間の長い彼のオペラ全曲を聴くことは殆どありませんが、
それでも「私の名はミミ」「星は光りぬ」「ある晴れた日に」」「誰も寝てはならぬ」等々アリアに聴ける甘く切ない哀愁と、ドラマティックに歌いあげられる旋律に惹かれて、抜粋版や名曲集として聴くことはしばしばあります。
プッチーニは、若い時期にわずかに管弦楽作品や室内楽を書いた程度で、歌劇以外には殆ど作品を残しませんでした。
そんな一つに、1890年に友人の訃報を聞いたプッチーニが、その死を悼んで一夜のうちに作曲したと言われる、弦楽四重奏による『菊』という、演奏時間7分ほどの小品があります。
ヨーロッパ諸国では、菊は葬式の花として使われているそうですが、曲名の由来はそんなところにあるのかもしれません。
冒頭から、深いため息やすすり泣きを思わせるような息づかいの中に流れる甘く切ない旋律の中に、
「棺に飾られた菊の色や香りを音楽にすると、こんな感じになるのかなぁ」と思えるような、独特の雰囲気を有したこの作品。
中間部でのチェロのピッチカートに乗って語られる美しい旋律は、懐かしい想い出を回顧するような趣が感じられます。
そして後半部にはいると、息づかいも深まり、悲しみもより深まっていきます。
悲しみが繊細に表現された、素晴らしい作品だと思います。
この曲は、後に弦楽合奏用に編曲されて、しばしばコンサートでも取り上げられているようです。
響きが分厚くって、悲しみがより痛切に表現された素晴らしい作品に仕上がっていると思いますが、
繊細な味わい深さという点で、私は弦楽四重奏版の方を好んでいます。
尚、ハーゲンSQ盤には、ヴェルディの弦楽四重奏曲と『ルイザ・ミラー』の弦楽四重奏版が併録されています。
こちらも面白い作品ですので、それも含めてお薦めできるかと思います。