男女が身体を接する踊りを穢らわしいと考えたハプスブルグ帝国は、長年にわたり法律によってこれを禁止していましたが、
数少ない娯楽として監視の目をくぐりつつ細々と命脈を保ったこの舞曲は、16世紀に入ると都市部へと伝わり人気が高まってきたために、やがては時の流れに応じて解禁されるようになりました。
農民の間で踊られていた頃は、動きの激しい踊りでしたが、都市部に拡がるにつれて、穏やかな動きのも舞曲へと変化。
1814年のウィーン会議のレセプションで、初めて国際舞台に登場することにより(「会議は踊る、されど進まず」と言われたほど、出席者を熱中させた)、ワルツは瞬く間に世界各国に広がり、
現在我々がニューイヤーコンサートで観、聴くことができる上品で優雅な舞曲へと進化していきました。
今日エントリーする作曲家のヨーゼフ・ランナー(1801-1843)は、この後ワルツ熱が世界的な高まりをみせていく時期に、
ウィーンのダンス音楽団の団長として、J.シュトラウス1世とともに、現在のウィンナワルツの基礎を築き上げるのに多大な貢献を果たした人物と言われています。
『マリアのワルツ』は、ランナーが作曲した400曲以上あると言われる舞曲の中でも、その代表的な作品。
このワルツは、「マリア」という名の女性像を描いているのでしょうか?
ウィーン・アルバン・ベルク四重奏団の演奏は、一つ一つの楽器の繊細かつふくよかな音色と、当意即妙に変化していく曲の表情の多彩さは秀逸なもの。
序奏部、今にも産毛に触れそうな瞬間のときめきを髣髴するような、弦の柔らかい響きと、優しく繊細な表情!
主題部では、時に蠱惑的な、時に可憐な、時に生真面目に、時に悪戯っぽく等々、
次々と変化していく曲の表情に翻弄されつつも、でも楽しい演奏です!
絢爛豪華なオーケストラで聴くウィンナワルツも素晴らしいものですが、
時にはごく小規模な編成によるワルツの演奏を聴くのも、味わいの点では、オーケストラ以上のものかとも思います。
なおこのディスクには、ウェーベルン、アルバン・ベルク、シェーンベルクという新ウィーン学派の作曲家がアレンジした,J.シュトラウス2世のワルツが3曲収録されていますが、
こちらのワルツも、スパイスこそ異なっていますが、曲の持つ豊潤な味わいや喜悦感は失われていません。
それも含めてのこのディスク、一聴に値するものだと思います。