当時、ウィーンフィルの指揮者として成功を収め、かつ19歳年下のアルマ・シンドラーと言う女性と出会って、その3ヶ月後には結婚するというように、公私ともに脂の乗り切った時代であったと言われます。
有名な第4楽章“アダージェット”は、指揮者メンゲルベルクによると、アルマへの愛の告白といわれ、
完成したスコアの表紙には、この曲を新妻アルマに捧げる旨が記されています。
今日エントリーするディスクは、ブーレーズ指揮するウィーンフィルの演奏です。
指揮者名からどなたもが推察されるように、バーンスタインに代表される感情移入型の演奏とは一線を画したもので、
無機質のような冷たい演奏との否定的な評価も聞いています。
元々スコアを分析した上で曲の全体像を掌握し、曲の意図を明確に表現することにかけては誰よりも秀でた人ですが、
彼のマーラー演奏を聴くと、それに加えて他のどの演奏よりも、音楽から繊細かつ多彩・多様な表現が感じられます。
それは大指揮者でもあったマーラーがスコアに書き記した、テンポ、ダイナミック、フレーズ、表情等に関する事細かな指示が、
極めて的確に再現されているように思えるのです。
第1楽章、トランペットの不吉なファンファーレに導かれて開始される葬送行進曲には、愛撫するような官能的な愛おしさが感じられます。
ウィーン・フィルの弦の美しさが際立つ演奏!
「嵐のような動きで、より一層激しく」と指示された第2楽章には、第1楽章の葬送行進曲が纏わりつきつつ、退廃的な雰囲気へと導かれていきます。
正直申しまして、この楽章はバーンスタイン盤のような感情移入型の演奏に惹かれること、告白しておきます。
しかしながら、続く第3楽章スケルツォ中間部の、第7交響曲の「夜曲」と称される第2、4楽章を髣髴する、儚なく漂う美しさ!
第4楽章アダ―ジェットの、神品としか言いようのない高貴で美しい演奏!
余人の追随を許さないような、この二つの楽章の美しさに強く惹かれたことが、このディスクをエントリーした理由です。
前楽章の余韻を残しながら、牧歌的な旋律の掛け合いから始まり、際限なく拡がっていく終楽章の高揚感は、
それまでの4つの楽章との強い結びつきが感じられる演奏!
何故そう思うかは判りませんが、曲を完全に理解し切った演奏家のみがなしうる業であることは、断言できると思います。
曲の隅々までを表現し尽くした、素晴らしい演奏と感じました!!