最近聴いたCD

フランツ・シューベルト
ヴァイオリンとピアノのための幻想曲 D934 

シモン・ゴールドベルク(Vn) ラドゥ・ルプー(Pf)


シューベルト死の前年の年である1827年に作曲された、ヴァイオリンとピアノのための作品。

4つの楽章から構成されていますが、楽想の赴くままに切れ目なく演奏される形式をとっているため、ファンタジーの名がつけられています。

20歳代の半ば頃から不治の病に侵されていることを自覚し始めたシューベルトは、

それ以降晩年に向かうほどに、現世では叶うことがないであろう幸福への強い希求が、彼岸への憧れへと昇華されて作品に刻まれるようになったと言われています。


第1部冒頭、ピアノのアルペィジオに乗って奏されるヴァイオリンの旋律は、魂が虚空を彷徨うような儚ない印象が強く感じられるもの。

二つの楽器が絡み合いながら、悲しいまでに清澄な音楽が展開されていきます。

第二部の、心弾むようなリズムの中にどこか儚さが感じられる音楽は、彼岸での自由で無邪気な魂への憧れを表現しているように思われます。

第3部は、主題と4つの変奏曲から構成されていますが、

この主題の初めの部分を聴いて、私はモーツァルトのピアノソナタK331の第1楽章(変奏曲)を連想しました。

現世で愛した音楽(モーツァルト)への惜別なのでしょうか。

勿論、単にモーツァルトの真似ごとではなく、シューベルト特有の清澄な歌にも溢れた主題と4つの変奏曲には、素晴らしかった出会いを回想するような、深い慈しみが感じられます。

第4部では、ベートーヴェンの第9の「歓喜の歌」を髣髴する旋律が登場します。

この年に亡くなったベートーヴェンへの畏敬の念が込められているのでしょうか…。

悲痛さが排除されて、全編が恋焦がれるような強い憧れに満ちてる点が、晩年のピアノソナタや弦楽五重奏曲とは異なるように感じます。


今日のエントリー盤は、シモン・ゴールドベルク(1909-1993)のヴァイオリンとラド・ルプーのピアノによるもの。

シモン・ゴールドベルグは、20歳の時にフルトヴェングラーに請われてベルリンフィルのコンサートマスターに就任した逸材。

ビブラートを抑えた、濡れるような味わいの音色は、

ルプー奏する抒情的なピアノとあいまって、シューベルト晩年の心境を美しく紡いでいると感じました。

ホームページへ