この詩の内容は、自らの領土へ侵入してくるポロヴェツ人(ダッタン人)を制圧するため、兵を率いて出征したイーゴリ公(実在の人物)は、敵地での戦いに敗れて捕虜となるのですが、
祖国の窮状を伝え聞いた彼は脱走を決意し、無事帰還するに至った顛末が記されているそうです。
詩のモティーフが、外敵に対するロシア諸公の団結を訴えた愛国的な内容だったために、ボロディン在命当時のロシア国内では、大変に称賛されていたとか。
科学者としての研究に忙しい中、この叙事詩に注目したボロディンは、歌劇の完成に向けて作曲を開始しましたが、死によって未完に終わり、
その後リムスキー=コルサコフとグラズノフによって加筆され、ようやく完成に至りました。
今日エントリーするのは、この歌劇の中でも比較的有名な「序曲」と、超有名な第2幕で演奏される「ダッタン人の踊り」の2曲です。
「序曲」は楽譜が残されておらず、生前ボロディンがピアノで弾いた音楽を記憶していたグラズノフが、劇中のアリアを基に作曲したものです。
静けさの中にもやや緊迫感をはらんだ冒頭部は、広大なロシアの大地の夜明けを髣髴させる印象的な描写音楽。
静けさを打ち破るようにあちこちから鳴り響くファンファーレは、軍を蜂起したイーゴリ公の決意を思わせる、崇高かつ勇壮なもの。
主題部には、劇中で使われている3つのアリアが用いられていますが、
中でもクラリネットが奏でる第2主題や、ホルンの奏でる第3主題は、
異国で捕虜となったイーゴリ公の望郷の念が感じられる、異国情緒に溢れた大変に印象的な音楽です。
「ダッタン人の踊り」は、囚われの身となってもなおプライドを失わないイーゴリ公の態度に心打たれた敵将が、
彼に敬意を表して、客人としてもてなすために設けられた宴席で歌い踊られる音楽。
序奏に続いて歌い踊られる“娘たちの踊り”の、異国情緒を湛えた旋律は、郷愁を掻き立てられるような美しいもの。
そして、強烈なティンパニの強打するリズムに乗って、ダッタン人の汗(遊牧民族の君主の称号)を讃えて歌い踊られる、勇壮な“全員の踊り”の迫力!
合唱付きの「ダッタン人の踊り」が収録された、ネーメ・ヤルヴィ指揮するエーテボリ管弦楽団の演奏をエントリーさせていただきました。
演奏自体が、スマートすぎるとも思えるのですが、
オケだけで奏されるよりも、遥かにインパクトが強く感じられるからです。