アイルランドの民族音楽の伝統を反映させた作曲家としてよりも、
指揮者としてハレ管弦楽団の第1期黄金時代を気付いた実績や、
夜想曲の創始者とされる同国生まれのフィールドのピアノ曲や、
ヘンデルの『水上の音楽』『王宮の花火の音楽』を近代的オーケストラ曲に編曲したアレンジャーとして、より高い評価を受けているようです…。
しかし彼の作品には、我々が親しんでいるアイルランド民謡の「夏の名残りのバラ」「ダニーボーイ」「サリーガーデン」のようなアイルランド民謡から感じるほのかな哀愁が漂っており、
聴くたびに郷愁を覚える安らぎの音楽なのです。
彼の書いた唯一のピアノ協奏曲であるエントリー作品も、そんな一曲。
第1楽章、オーケストラによって奏されるほのかな哀愁を漂わせながら、滔々と流れる息の長い旋律は、
恰もアイルランドの歴史をたどるような趣が感じられる音楽。
独奏ピアノは、祖国の歴史を回想するヒトの感慨を表現しているようで、叙事詩的な印象の強い楽章です。
アイルランドの先輩作曲家ジョン・フィールドの夜想曲の世界を思わせる第2楽章では、降り注ぐ月の光を思わせるピアノの音色が醸す静寂の中、
耳を傾けると、遥か彼方から鳥のさえずり、海鳴りの響き、寺院の鐘の音…、幻想的な雰囲気が漂います。
終楽章は、活気に満ちたアイルランドの民族舞踊(ジグ?)で開始されますが、
弦楽器で奏される第2主題は、古への追憶がこみ上げてくるような、大変に印象的で心に残る旋律です。
ハーティの曲に関しては、発売されているディスクも少なく、エントリーした演奏しか聴いたことがありませんが、
ブライデン・トムソン指揮するアルスター管弦楽団による一連のハーティ作品の多くから、前述したような印象を抱いています。
繰り返しますが、ほのかな哀愁の中に郷愁が感じられる、日本人好みの曲だと思うのですが!