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歌劇『ウィリアム・テル』序曲 

リッカルド・シャイ指揮 ミラノ・スカラ座管弦楽団


クラシック音楽大好きな私ですが、コンサートホールや自宅のスピーカーの前で臆面もなく聴くことに気恥ずかしさを感じる曲や演奏に出くわしてしまうことが、時折あります。

イタリアの作曲家ロッシーニ(1792-1868)の歌劇『ウィリアム・テル』序曲も、そんな曲の一つかもしれません。


『ウィリアム・テル』とはスイスに伝わる英雄で(実在したかどうかは不明)、自由を求める精神的なシンボルとして、同国に語り継がれてきた物語ですが、

フリードリッヒ・シラーがそれを題材にして戯曲化することにより、広く世界に知られるようになりました。

オーストリアの圧政下に苦しむスイスの独立運動を描いたこの戯曲を基に作曲されたロッシーニ最後のオペラは、4幕5場からなる大作となっています。

歌劇そのものは、余りにも長大なために、今日上演されることは殆どないようですが、

序曲だけは、名曲集に編纂されたり、

とりわけ第4部「スイス軍の行進」は、コマーシャルや番組のテーマ曲としてパロディー化されて、しばしば耳にするお馴染みの曲。

それゆえに、イージーに演奏されるこの曲は、単なるBGM以上のものとは感じられず、

わざわざコンサートホールや自宅で、曲と対峙しながら聴くことが馬鹿らしく感じられるのです。


ところが、何気なく聴いていても、思わず耳をそばだてるような演奏が存在することも事実です。

この曲に関しては、若い頃にはトスカニーニ/NBC交響楽団の演奏に、

そして近年ではシャイ/スカラ座管弦楽団による演奏には、

一音たりとも聴き逃すまいと、スピーカーの前に釘づけになったものでした。


独奏チェロと、低弦およびティンパニーだけで演奏される、戦い前の緊迫感が漂う第1部「夜明け」、

「嵐」の到来とともに、独立運動の蜂起をも描写した第2部、

嵐が静まり、戦いに勝利した母国に訪れる平和を象徴する、イングリッシュホルン奏する牧笛の音色が印象的な、第3部「静寂(牧歌)」、

そして、ロッシーニ・クレッシェンドといわれる、音量とスピードを上げつつ、大きなうねりを伴ないながらコーダへと突進する、輝かしく劇的な「スイス軍の行進」!

「こんな曲、聴き飽きた…」とおっしゃる方!

録音が良好で、素晴らしく精彩のあるロッシーニ・クレッシェンドが聴けるシャイ盤、ぜひお薦めしたいと思います。

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