彼の他の交響曲とは趣の異なったものと評されていたような記憶があります。
当時高校生だった私は、第7〜9番までの3曲、とりわけ曲の隅々にまで感情移入されたフルトヴェングラーの、神々しいまでに美しく、かつ劇的でロマンに溢れた演奏を愛聴しており、
高校・大学時代を通じてブルックナーに心酔してはいましたが、第6番全曲を聴き通した記憶は殆どありませんでした。
今日エントリーする、クルト・アイヒホルン指揮するリンツ・ブルックナー管弦楽団の演奏(1994年録音)は、この指揮者の「白鳥の歌」という触れ込みにつられて買ったように思うのですが、
当時世界のメジャーオーケストラの、一糸乱れぬアンサンブルを中心に聴いていた私には、初めて聴いた時から何とも冴えない響きと感じられて、長らく取り出すことのないディスクでした。
それからほぼ15年が経過して、昨日久しぶりに聴いたこの演奏は、何と大らかでのびのびと感じることでしょう!
第1楽章から、穏やかな大自然の中、森羅万象が互いに語り合うような、そんな大らかな息づかいが感じら取れる音楽が展開されます。
第2楽章は、夜の森の静寂に包まれて、全てを享受するような、達観した境地が感じられる音楽です。
葬送行進曲ともいわれる第3主題ですら、宗教的な雰囲気よりも、
むしろ静かに自然へと回帰するような、そんな穏やかさが感じられます。
第3楽章は、妖精が飛び回るような、まるでメンデルスゾーンの世界を髣髴させる、幻想的なスケルツォ…。
終楽章、夜の静寂の中に響くようなホルンの音色は、懐かしい故郷での魂の寛ぎを感じさせる穏やかさ!
牧歌的な雰囲気に包まれつつ、素朴な歓喜へと曲は導かれていきます。
アイヒホルン最後の録音となったもので、この三カ月後、84歳の生涯を閉じたそうです。
私自身、それほど多くのブルックナー演奏を聴いてはいませんが、
これほどまでに自然の声が聞こえるブルックナー演奏は、初めての体験でした。
彼の「白鳥の歌」、一聴の価値ある名演だと思います!