今日聴いた『ハープでかたる春愁歌[篠崎史子の個展]』というこのCDは、
20世紀の後半に、日本人作曲家によって独奏ハープのために書かれた7つの作品を収録したもの。
10数年前に、“春愁歌”というしみじみとした情趣を感じさせるタイトルに惹かれて買ったものでしたが、
現代音楽に感受性がなかった私は、一聴して「こりゃ、ダメだ!」と思い、そのままCD棚に放置していたのです…。
改めて聴き直したこのディスク中で最も惹かれたのは、ディスクのタイトル名にもなっている、佐藤聡明(1947-)の『春愁歌』という作品でした。
寡黙に日本的な情緒を奏でるハープの音色が、静寂の中をゆったりと空間に漂うさまは、
恰も大気の揺らぎのように感じられ、
その余韻が醸し出す物悲しさは、
時空を超えて、失われた昭和20年代のゆったりのんびりとした日本の風情を、私に思い起こさせてくれました。
独学で音楽を学び、自己の音楽世界を築き上げた彼の音楽は、
『東洋の神秘主義者』と評され、世界中の音楽家に大きな影響を与えているそうです。
氏の作品といっても、『春愁歌』しか知らない私ですが、
嘗ては花鳥風月愛でた多くの日本人が抱いたであろう、しみじみとした情趣や哀感を表現した音楽だと思うのです。
そしてこんな感慨は、現代においては、人工的に閉ざされたコンサートホールという空間の中で奏でられる音楽でしか体験できなくなった、ふとそんなことを考えてしまいました。
そんあ佐藤氏の作品を、もう少し聴いてみたいと思います。