楽器編成は異なりますが、それ以前に書かれた弦のための室内楽(=弦楽三重奏曲)であるop.3、8、9ー1〜3等と比較すると、
音楽の訴える力は格段に大きくなっていますし、
ハイドンやモーツァルトの影響がみられると言われつつも、明らかに彼らの作品とは一線を画した、
若々しく磊落な個性が感じられる、ベートーヴェンらしい作品に仕上がっています。
1798〜1800年にかけて、彼は6曲の弦楽四重奏曲を集中的に作曲しました。
6曲を同じ作品番号(op.18ーno.1〜6)にしたのは、ハイドンの『ロシア四重奏曲』やモーツァルトの『ハイドンセット』を意識してのことと言われていますが、
ナンバーリングは必ずしも完成順ではなく、その理由は不明のようです…。
第1楽章は、それまでのハイドンやモーツァルトの弦楽四重奏曲と比べると、喜び・悲しみ・怒りといった様々な感情が赤裸々に表現されていますが、
それが颯爽とした音楽へと収束していくところが、いかにもベートーヴェンらしく、胸のすくような高揚感を感じます。
第2楽章は、永遠の別れを表現しているのでしょう。
痛切な悲しみの音楽なのですが、この悲痛な旋律の中に官能的な陶酔を感じるのです…。
しかし最後は煽るように激しくテンポを上げて、慟哭のうちに曲は終わります。
第3楽章は、対照的に和気あいあいとしたおしゃべりを思わせる愉しげなスケルツォ。
中間部のトリオ部分は、ちょっと気分を変えて、まじめな議論を楽しんでいるようです。
終楽章は、茶目っ気たっぷりに様々な気分を楽しむような、
爽快さと優雅さが同居したような、ちょっと贅沢な趣が感じられます。
ベートーヴェンの弦楽四重奏ということで、居ずまいを正して聴く人が多いようですが、
少なくとも初期の6曲に関しては、肩の力を抜いて、様々なことを連想しながら楽しめる音楽だと思います。