最近聴いたCD

ピョートル・チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番  

ピアノ:スヴャストラフ・リヒテル
カラヤン指揮  ウィーン交響楽団


日本のクラシック音楽の黎明期には、より多くの人々に曲を普及させるために、先人達は色々と工夫を凝らされたようです。

その一例が、三大○○と称して、曲の偉大さをアピールすることによって、先ず一般聴衆の関心を集めました。

三大交響曲と言えば、『運命』『未完成』『新世界』 、

三大ヴァイオリン協奏曲と言えば、『ベートーヴェン』『メンデルスゾーン』『チャイコフスキー(時にブラームス)』 の作品、

そして三大ピアノ協奏曲と言えば、『皇帝』『チャイコフスキー第1番』『ラフマニノフ第2番』というように…。

クラシックファンを自認する我々の年代の多くは、まずこういった曲から聴き始めたものでした。


それぞれに名曲だと思いますが、当時『運命』『新世界』に次いで(或は同等に)人気の高かったのが、チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番。

短いオーケストラの前奏の後に開始されるピアノの雄渾壮大な冒頭部は、それほどクラシックに興味のない人でも、「あれか!」とおっしゃるほどに印象の強い曲でした。 


1963年に録音されたこの演奏は、

フルトヴェングラー亡き後のベルリン・フィルの音楽監督として、名実ともに世界の指揮界の頂点に立ったカラヤンと、

当時ソ連国外で演奏することが殆どなく、幻の大ピアニストと言われたリヒテルとの、

一期一会の演奏として、大変な評判になったディスクでした。


この演奏の最大の魅力は、全三楽章の随所に聴かれる二大巨匠の丁々発止とした駆け引き。

カラヤンとしてはかなり遅目のテンポで演奏されているのは、リヒテルのロマン的情緒の濃い演奏スタイルを尊重した伴奏と言えるのでしょう。

例えば、第一楽章冒頭部の悠然たるスケール、

情緒綿々と歌われる中間部を経て、

クライマックスのピアノとオーケストラの壮大な競演に、思わず狂喜せんばかりに感動したものでした。


人気の高い曲ですから、昔から数多くのディスクが発売されてきましたが、

ピアニストの有する濃厚なロマンと、颯爽としたオーケストラ演奏が相乗的に作用し、

息も吐かせぬ白熱した演奏を展開するこのディスクに勝るものに、未だに遭遇出来ずにいます。

そのために、最近はこのディスク以外は、実演も含めて全く聴く気持になれずにいるのです…。

それも、ちょっと淋しい話ですよね!

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